何で俺だけ「ある日の同僚の言葉」
ある日、仕事にログイン中の事。同僚が俺の所に来てこう言った。
「俺さ!なんだっけ!?あのここ最近ブームになってるゲームをやり始めたんだ!お前確か前にゲーム好きだって言ってたよな?お前も当然やってんだろ?お前ちょっと俺に付き合えよ。」
いわゆる陽キャ、とでも言ったらいいのか。これを当て嵌めるのに合っているかどうかはイマイチ分からないが、こいつは結構チャラい奴である。
いつもいつも「ブーム」に乗って楽しむのがコイツの趣味らしい。世の中の流れにいつも、いつでも乗るのが「カッコいい奴」の条件だと勘違いしているタイプだ。
おそらくはこれをネタにして「今時」と言う奴をブイブイ言うためにだけ、遊ぶつもりなのだろう。こう言った輩は飽きるのも早いものだ。
「おいおい、黙ってねーで何とか言ってくれよ。ゲーム内で待ち合わせしてさ、レベリングってーの?俺にやってくれよ?」
自分で仕入れた情報でどうやら俺を利用しようと思い付いたらしい。楽して強くなろうといった魂胆なのがバレバレである。
まあ、別にソレは悪くない。しかし問題はデカイ。俺はコイツと仲良く無いし、そんな事をしてやる義理も無い。
そもそもだ。俺は「魔王」をやっていて、そんな事に付き合えないのだ根本的に。
「で、お前、職業何にしたんだ?俺はやっぱりよ?魔法って憧れるじゃん?だから魔法使いにしたんだけどさー、全然思ったような魔法使えねーの!だからお前さ、俺がド派手な魔法使えるようになれるまで助けてくれよ、な?」
馴れ馴れしい言葉を並べてくるのだが、俺はコレを無視して仕事を熟す。
「おい!こんだけ話しかけてんのに無視すんなよ!聞いてんのか!」
この空間ではハラスメント行為がされない様に設定されている空間だ。バーチャル空間サマサマである。
コイツが俺の肩に手を掛けようとしても触れる事は不可能だ。俺がこの空間でのアバターを設定する際にその項目を「オン」にしておいてある。
もちろんこの会社の社員個別で「オン」「オフ」も可能なのでこいつとは関わり合いたくない、と言ったら個別設定もできちゃったりする。
まあ人間関係がぎくしゃくしてしまったりして仕事の能率がそれで落ちる事が無いように、と言った上司の監視もあったりするのだがそこには。
「てめえ!くっそ覚えてろよ!?ゲームで会ったらマジで潰すからな!」
コイツは全然分かっていない。課金で顔なんてほとんどのプレイヤーが変えている。
俺がもしマトモにプレイヤーとしてあのゲーム内で楽しんでいたとして、きっと課金はしていたに違いない。
コイツはきっとその点なんて何ら考えた事も調べた事も無いのだろう。そしておそらくは自分のキャラはそのまま現実の顔と全く同じにしている。
そいつが消えた後に俺はぼそりとこう言葉を漏らす。
「城へとご招待してやろうかな?会ったらマジで潰すんだろ?俺、魔王なんだけどなあ。」
もちろんその時に俺の正体なんてばらす気は無い。と言うか、察するなんて先ず不可能だと思う。
魔王は俺とは似ても似つかない、それこそ「魔王!」って言った感じのキャラだからだ。
俺を目の前にしてもその誰もが「中の人」だなんて想像もできないだろう。
「そうだなあ?俺もあの玉座の間の中でだけは自由に動けるようになったし?とは言え、動けるだけで魔法使えないし、特に何か特別なスキルとか使える訳じゃ無いのがなあ?」
魔王本体で特別な事が何かできるようになった訳では無く、本当に椅子から立ち上がれただけ、みたいな状況である。
しかし日課であるミャウちゃんとの訓練の成果も感じたい。なので俺はここで一つ悪い事を思い付いた。
「よし、また攫って来て貰おう。今のプレイヤーの強さで動ける魔王がどれだけ通用するか。そこで俺が負けちゃえばソレはソレだと割り切って行き当たりばったりで楽しむのも一興だよな。」
まあ俺が本当にやられてしまいそうになったら、ミャうちゃんがそこに絶対に俺を殺させない様にと介入はしてくると思われるが。
「ミャウちゃんと一度相談してみるか。ああ、でも前は問答無用でプレイヤー攫いをしたけど、今度はもうちょっと趣向を変えてみるのも面白そうだなぁ。」
こうして今日の仕事をやはり早めに終わらせて早上がりした俺は早速「魔王」へとログインしてミャウちゃんにこの俺のやりたい事を話してみる事にした。




