何で俺だけ「日課ができました」
俺がゲームにログインして必ずする事。それは操れる赤点を青点に向けて移動させる事。
一日に赤点は二つだけ自由に操作が可能だ。コレが分かって俺はこの時から検証を毎日した。
幾ら長距離を移動させても、青点との接触があるまでは何処までも移動させることが可能。しかし、そのモンスターが生息している「領域」は超えられない。
一度青点と接触をするとそれ以降はこちらの操作を受け入れなくなる。戦闘に関して介入が不可能だ。
詳しく分かる情報はレベルだけ。それ以外は全く分からない。しかもマップ拡大させてドアップで見ないと分からない不親切仕様だ。
赤点二つを操作し終わると、その日はそれ以上動かせない。幾らやっても駄目だった。
コレで倒せたプレイヤーからゲットできるポイントはそこそこ、もしくは微妙と言った数値だ。
これらとはまた違う点で細かい部分で色々と制限があったりするが、概ねコレであっているだろう。
ここまで分かるようになるのに四日は掛かった。それ以降はスムーズにプレイヤーへと魔物を仕掛けている。
そうした中で以降は効率良くこれでプレイヤーを「狩る」ためにはどうしたらいいかと考え続けた。そして俺は四天王に情報提供を呼び掛ける。その内容は。
『魔物の強さと特徴を教えてくれ』である。そう、魔物のざっくりとした一覧を作り、レベルの予想。各地のプレイヤーへと仕掛けるのに際して強い、もしくは非常にいやらしい搦手を使える魔物をけし掛ける為である。
最初の頃はどれを仕掛ければいいかの情報がレベルの高さだけだった。しかしこの情報を受け、その一定レベルの魔物がどんな奴なのかの予想が立てやすくなり、そしてその「組み合わせ」も少しづつ進む。
そしてそれらの情報が集まり纏まって、より一層にポイント稼ぎが捗るようになった。
ミャウちゃんからは「流石魔王様です」と、この効率を求めたやり方を絶賛されたのだが、喜ばしい事ばかりではない。
最初の内はそうやって魔物をけし掛けても返り討ちにあっていた事だってあるのだ。それは偏にプレイヤーがけし掛けた魔物よりも強かった結果、である。単純だ。
それと、その場所では比較的に弱い魔物だと全く俺が知らずに操作をしてプレイヤーへとけし掛けたので、そのせいで返り討ちにされた、と言う理由で負ける事もあったりする。
その領域のレベルの一番高い魔物をぶつけても倒されてしまうと言った事態もたまにあった。それは只単純に力負けしただけなのかもしれないと言った疑いの負けである。
一筋縄ではいかない、脳筋で戦っても駄目なのだ。いや、場面が変われば「力こそパワー」みたいな馬鹿な言葉がハマるパターンもあったりするだろうが。
それでも搦手を使う魔物を意識して使い始めたら勝率がどんどんと上がっていたのは驚いた。そうした試行錯誤の毎日の中で「組み合わせ」の中でもこれを入れると勝率が上がる、と言ったモノを直ぐに見つける事ができたのだ。
四天王から話を何度か詳しく聞き、その対象がおそらくは「搦手」が得意な魔物であると言った確信を得るまでになった。
そうしてある日の事、こうも思った。もしかたらそう言った搦手対策が発展してはいないのかもしれないと。或いは単純に攻撃とサポートで二体一組になるように魔物を組ませてプレイヤーへとぶつけている事が幸いしているのか。判明した組み合わせでプレイヤーとの接触をさせるとかなり良い感じでポイントが入るようになった。そう、かなり高い確率で勝つのである。
俺の懐に入って来るポイントは日に日にドンドンと溜まっていった。少しづつ、しかし、確実に。
そしてこのポイントが少量ずつでも溜まっていく事に若干の快感、幸福を感じて来ている俺は少々病んでいるのだろうか?
とは言え、俺じゃなくても、増えていく数字に安心感を得ると言った事を感じる人は多く居るのだろうから、これは別に何らおかしい事では無いのだろう。
そしてこれも日課になった。
「はあああああ!」
ミャウちゃんが俺へと鋭い蹴りを放ってくる。右ローキックだ。
俺はそれをマトモに太腿にくらわないようにと足を若干上げて受ける場所をずらし躱す。
負けじと俺も右ストレートを放ってミャウちゃんの胴を狙うのだが、それはあっさりとバク転されて躱される。
俺は自由に体が動かせるようになってミャウちゃんに戦闘訓練をして貰っている。そう、スパーリングをしているのである。
格闘家の真似、とでも言ってしまうとかなりおかしな感じであるが、至って俺は真面目である。ふざけているつもりは無い。
いざとなったら俺はプレイヤーと肉弾戦をする未来もあるかもしれないのだ。なのでそう言った事も考えてこうしてミャウちゃんに戦闘訓練をお願いしたと言う訳だ、魔王命令で。
この命令に最初はビビっていたミャウちゃんも、俺がプレイヤーに「万が一にも」やられないように鍛えたいと願った事で、今では真摯に対応してくれている。
「魔王様、今先程の右ストレートは隙が大きすぎます。もっとコンパクトにして、そうです、その調子です。」
ミャウちゃんがこの時間の間だけちょっとだけ砕けてラフな言葉遣いになってくれている。
まあそれはあんまりにも畏まった言葉で俺の動きの悪い所を指摘、説明をしようとすると冗長になってしまいがちになったからだ。
今でも俺の攻撃は一度もミャウちゃんに当たった事が無い。しかしミャウちゃんの方からは断然バシバシと攻撃が来るわけで、そこを考えるとちょっとだけスパルタ教育である。
まあ、ミャウちゃんが手加減してくれているのか、それともこの「魔王」の体が異常に頑丈なのか、ダメージらしいダメージは今まで一度たりとて受けた事が無い。
こうして俺は毎日このゲームでの出来る事が増えてようやっと本格的にこのゲームを遊んでいるのだと言った自覚が持てるようになっていた。




