何で俺だけ「とある日の事」
「俺たちはあの森で狩りをしていたんだ。掲示板では森の浅い部分には何故か狙撃が来ないって話が纏められててさ。」
ソレは一人のプレイヤーの言葉。続けてその彼の仲間が言葉を繋ぐ。
「そうなんだよ。先ずは肩慣らし、と思ってさ、比較的狩りやすいモンスに戦闘を吹っ掛けたんだ。最初は良かった、良かったんだけどさー。」
その言葉をこのパーティーと友好関係を結んでいる別のパーティが真剣に聞いている。
「いきなり何処からともなく、全くそのモンスとは絡まないモンスが凄い勢いで現れてよ?ありえねーだろ?そんな事。掲示板でもそんな話聞いた事も見た事も無かったのにな。」
モンスと言うのは只の略称、モンスターの意だ。そして続けられる言葉。
「しかもだぜ?その後にまた全く別の種類のモンスがこっちに突っ込んできてよ、あれよあれよという間に乱戦で、ボッシュートですってな。」
ライドルの領域の森の浅い部分で狩りと称してレベル上げをしようとしていたプレイヤーパーティーはそう言って話を締めくくる。
要するに「あり得ない事が起きた、何を言ってるのか分からねえと思うが」である。
「なあ?質問なんだけどさ?それって検証した?情報は掲示板に流しておいた方が良いんじゃね?」
一人のこの単純な質問にプレイヤーたちは相談し始める。コレは何か恐ろしい事が起こる気配だ、と。
そしてアップデートも運営から情報が来ていないのにもかかわらず、こう言った訳が分からないよ、と言った現象が起きているなら掲示板検証班の出番であると。
この情報は瞬く間に広がり、ゲーム内では一時話題となった。乱戦、コレは同種のモンスターが数多く集まって居る場所でたびたび起こる事だった。
そう言った場合は一人のプレイヤーがモンスターを一体だけ「釣る」と言うテクニックで各個撃破と言うのがセオリーになる。
釣りと言うのはその名前が示すとおりに一体だけに攻撃を仕掛けて気をこちらに引き、遠くで潜み構える仲間の元にその「釣った」モンスターを誘き寄せる戦法である。
しかし戦闘中に全くその戦っているモンスターとは別種のモンスターが加わって来る事はあり得ない。そう、今まではあり得なかったのだ。
それが今回こうして事例として挙がってきた事で掲示板は荒れに荒れた。
誰もが情報提供者を「嘘乙」と突き放すのだが、何故かそう言ったプレイヤーたちがその後に続々と「すみませんでした」と謝る事態が急増した。
各四天王の守っていた領域、その他の場所でも様々な場所でこの現象が確認され始めてようやく一つの結論が掲示板内で纏められた。それは。
「全プレイヤーのレベル平均が一定数を超えた事に因る仕様」
これだった。運営にもこの現象は「バグではなのか?」と言った問い合わせは多くされていた。しかしこれになんの反応も返さない運営。
この対応によって余計に「ゲーム内であらかじめ設定されていた事」だと言った事が信憑性を帯びてきた事でプレイヤー間で結論が出る。
主人公側の全体平均レベルが一定数を超えると、ストーリー難易度が上がるゲームはこれまでも数多く世に出て来ていた。その仕様なのではないのか?と。
ある意味でコレは合っているとも言えるし、しかし大幅に間違っているとも言える。
しかし最前線組、攻略組と言えるプレイヤーの数はそこそこに多く、そしてゲーム発売からかなりの日数が経過しているのでプレイヤーの平均レベルも、遊戯人口も増えており、この仕様が「発動」したのはおかしくはない、とプレイヤーたちは「勘違い」をした。
そしてそれが定着してより大きな悲劇が後に生まれる事へと繋がる。それはこのゲームを開発した運営も、プレイヤーも想像だにしなかった「魔王の復活」である。
魔王がこのゲーム世界を誰の目にも憚る事無く闊歩する光景。運営はそれを想定していなかった。いや、一人だけはその未来に懸念を評していたが。対応はさせてもらえなかった。
本来だったなら今もずっと「魔王」の調整をしているはずではある。しかし別部署の仕事がずっと忙しく、調整どころの騒ぎでは無かったのだ。
今回の件もその人物が時間の合間を縫ってその事を上司へと訴えた時も「ソレは後だ、急ぎの仕事はそれじゃない」と言って取り合わなかったと言った事も要因だった。
しかし「魔王復活」はこの件からまだまだ暫く時間が経った後の事である。しばらくの時間、とは言え、しかしそれは遠くない未来に現実となるのだが、今この時にはその事を誰も知る由は無かった。




