何で俺だけ「悲劇の始まり」
俺はその後不貞寝した。今日を含めて三日の連休だ。せっかくゲーム三昧、友と一緒に魔物をバッタバッタと倒し回る計画は根底からパーになったのだ。
コレで不貞腐れない訳が無い。望まないモノを押し付けられて、それを素直に「はいワカリマシタ」と受け入れられるモノじゃない。
購入したこのゲームを本日朝一から始めて、この連休でブッ潰れるまでまで遊び倒そうと思っていればコレだ。ベッドに寝転んで俺は悲しみを吐露する。
「魔王って何だよ、全くさー。そのおかげで友との友情は破綻。って言うか、あっちがクソ馬鹿なだけだけど。あいつ俺の事を頭悪いとか言って、やってる事はアイツの方が頭悪いわ。あーもう、何も考えたくねえ。」
俺はそのまま昼までうだうだとベッドでゴロゴロし続けた。朝っぱらから「さあこれから大冒険の旅に!」と軽く興奮していたので目が冴えていたのだ。
そして魔王の件で脳内はグルグルとその事を考えてしまう。そして友の馬鹿さに怒りも混ざり、俺は眠れないままに無駄な時間を過ごし続けた。
その間にポイント振り分けを極端な形で振ったせいで、ゲーム内では阿鼻叫喚となっていた事を俺は知らない。
そして俺がやっと心の整理が多少ついた時に、ふと現実の方でポイントの操作をできる事を思い出して腕時計型の操作端末を嬲ってゲームと繋げられるのか?とメニューを探してみた。すると。
「あー腹減った。お?いや、本当に在ったよ。連動自動でするのかよコレ・・・まさか利用規約なんて真面目に読まねえから分からなかった。で、ああ、ログインした時と同じだな?これをいつでも確認できていつでも振り分けできるってか?魔王って何なんだろうな?」
恐らくだが、魔王を封印から解くと俺はソレを操って自在にあのゲームの中を遊びまわれるのだろう。
だけどもそれがいつになるのかは、どれくらいポイント振りをすればそうやって遊べるのかは何処にも説明は無い。
「マジでコレ、ログインする意味無くね?でもなぁ?あークッソ!進んで俺との友情をぶっ壊してきたあの馬鹿には痛い目見せてーしな?どうすっかな?ああ、もう自棄だ。魔王業はテキトーにやるべ。運営、恨むぞこら?」
魔王の復活なんて後回しだ。配下の四天王を強化すれば俺以外のプレイヤーへの嫌がらせになるだろうと考えれば、多少は胸のすく思いだ。これを八つ当たりと言う。自棄のやんぱち。
「よーし!こうなれば運営にも嫌がらせの如くになる様、遊んでやる!目にモノ見せてくれるわ!」
俺はここで不純な動機で「魔王」を遊ぶことにした。この決心が後にこのゲームを混沌の極みに堕とす事になろうとは俺も運営も、このゲームを愛する健全なプレイヤーにも知る由も無かった。
「先ずは四天王最弱を最強にするべし!オラオラオラオラオラ!」
俺は今このメニュー画面に表記されていたポイント「1283」その全てゲブガルの強化へとつぎ込んだ。
ログアウト前のチュートリアルでもあった初期ポイント「300」も既に全部ゲブガルにつぎ込んでいたと言うのに。
「よっし!もう後は全て忘れてしまおう。魔王なんて無かったんや、そうだ、そうなんだ。さて飯でも食いながら、この間に知って気になってた映画でも見ようかな。」
俺はこの後に、この日の夕方になるまで一切ゲーム内メニューを開かずにいた。