何で俺だけ「アレからの事」
恐怖の館の件から一週間。この魔王勢力の方にはアレからと言うもの、何も変化は無い。穏やかなものだ。
バイゲルからの報告を受けてプレイヤーがちょくちょくと攻めてきている事は知っていた。しかしどうやら一人もまともに今の所はバイゲルへとダメージを入れられる輩は出ていない事にホッとする。
「あー、そうだよなあ。考えてみればもう四天王の半分が撤退させられてるんだもんな。コレは由々しき事態だよ。と言っても、俺にはもう今の所できる事無いからなあ。」
ゲブガルとマイちゃんがプレイヤーに撤退させられたのは偏に「相性」が悪かったからである。とは言え、正面から堂々と戦っての事だ。しょうがない。プレイヤーの工夫次第では適正レベルではなくとも倒せるという証明だった。
いや、マイちゃんの場合はもっと別の、それこそ斜め上の要因で撤退を余儀無くされたのだが。
「ここ最近は不埒を働くプレイヤーも見受けられなくなりました。魔王様、どういたしますか？奴らをここいらで一気に殲滅してしまうというのはどうでしょうか？」
ミャウちゃんが焦れてきているのだろう。そう俺へと提案をしてきた。しかし俺はコレに却下をする。まだその時では無いと感じるから。
「それやっちゃうとなあ？恐らくはプレイヤーの動きがもっと鈍くなると思うんだよねえ。そうなれば追い詰めすぎるとプレイヤーの方もきっと「逃げ」に入るだろうしなぁ。」
いわゆる「無理ゲー」である。ミャウちゃんが全面的に前に出ただけで、今のプレイヤーの殆どは「ジェノサイド」されてしまうだろう。
確かに一時的にはそこで一気にポイントを稼げるとは思うが、その後はと考えれば、否応なく理不尽に潰されたプレイヤーはこのゲームを遊ばなくなってしまう可能性が高くなる。
このゲームを遊んでいるプレイヤーたちにトラウマを植え付けるのは諸刃の剣だ。このゲームの「寿命」を短くする可能性を大いに孕んでしまう。トラウマをバネにして大きく高く跳ぶプレイヤーも居なくはないだろうが。
このゲームからプレイヤーがいなくなる、イコール、俺のこの魔王ライフも短いモノとなってしまう事だろう。自殺行為である。「心中」を引き連れての大幅ポイント稼ぎはやりたくはない。
「は！申し訳ありません！出過ぎた意見を口にしてしまいました。お許しを。」
ミャウちゃんは深く頭を下げる。一々こう言った事で頭は下げなくてイイと俺は以前に一応はミャウちゃんに告げているのだが、やはりソレは拒絶されている。
コレは仕方が無い。ミャウちゃんに「忠誠ゲージ」なるモノがあれば既にＭＡＸを超えているだろうからだ。
「いいよ、いいよ。そうして意見を出してくれると凄く嬉しいし。俺の気付けない事とかあったらそう言った別視点で指摘されるのって凄く有難い事だしね。もっと意見を普段から出してくれていいからね。とは言え、もっとポイントは稼ぎたい所だけどなあ。うーん？」
少しずつ注ぎ込んでいるポイントはもうそろそろ一番最初の封印解放をしそうなのだ。長い時間が掛かった。
ここいらで一気に稼いでしまうと言うのは俺も分かる。魔王の封印解放が進めばできる事が少しだけ増えるのだから。
そうなればまたポイント稼ぎが少しくらいは捗る何かしらのシステムが出てくる可能性が高い。
「プレイヤーへのイベントは多く運営はやってはいるけど、魔王の方は最初の一回だけだったしなあ？」
その後にこちら「魔王」へのイベントがらみが発生していない。季節イベントはやっているし、このゲームとは違うゲームとのコラボや、アニメ、漫画、俳優などとのコラボなどもこれまでに幾度も運営は行っている。
しかし、魔王だけには何も無い。イベントは幾度も「プレイヤー側」にだけは行われているのに、それらに魔王が関連できる部分が一切無し。
その代わりと言っては何だが、それこそ不気味なくらいに運営からの俺への「干渉」が無いとも言える。
「我慢のしどころか。とは言え、プレイヤーの動きも別段沈静化してる訳じゃ無いんだよな。これを待つか。」
一応は掲示板も色々と確認をしてはいる。どうやらここ最近はライドルの居る塔を目指そうという気運が上がっているそうで。
「どうにもゲブガルを撤退させた情報で、そう言った方向に調子コイてる傾向っぽいよなあ。大丈夫かな、ライドル？でも塔に着くまでにどれだけ沈むだろうかプレイヤーは？きっと大量に押し寄せるんだろうけど、その時は地獄と化すんだろうなあ。」
ライドルの対策、それは恐らくプレイヤーは多くの「盾」を用意すると思われるのがすぐに予想できた。
しかしその程度ではライドルには付け焼刃だ。その様な安易な対策でライドルがやられるなどと言う事はあり得ない事を俺は知っている。
「数で攻めるだろうし、散開して一纏めでやられない様にと分散もするだろうけど、そのくらいじゃライドルの動揺は引き出せないんだよなぁ。」
盾の用意の他にも多くの人員導入、散開前進など、人海戦術を採って来るだろうとは思う。しかしその程度くらいで沈むライドルでは無い。
「前にライドルには「得意技は？」とか聞いてみた事が暇潰しにあったけど、やべえ特技を持ってるんだよねえ。よし、ちょっとだけ激励入れてみようかな？ライドルの倒したプレイヤーのポイントで、もしかしたらもうちょっとで解放になる必要ポイントの残りを稼げるかもしれないしな。」
「ライドルも魔王様の為とあらば全力で奴らの息の根を止めに掛かるかと。攻め入るプレイヤー全てを駆逐させましょう。愚か者の末路を分からせる良い機会かと。」
ミャウちゃん過激発言。でも別に俺はコレに何も言わない。
「じゃあ・・・ライドルちょっと良いか？」
プレイヤーたちの動きはまだ本格化していない状態である。しかし俺はまだまだ早いとは思ったのだが、ライドルへとこの件を知らせると同時に頑張ってね、と言った感じの軽い激励を入れるのだった。
