何で俺だけ「愚か者たちの最後」
二度目に響いたのも二回目に消えた仲間の声だ。そしてそれを合図に残った全員が「逃げる」を選択したのを読んだように門が閉じたのである。
「ひいいい!ヤバいってコレ!どう考えても俺たちじゃ手に負えなくないか!?」
一番最初に怖気づいていたプレイヤーがそう叫んで全員に弱音を吐く。コレに全員が賛成したが、しかし五人組のリーダーのプレイヤーがぐっと恐怖を堪えて声を荒げた。
「大丈夫だ!コレはゲームだぞ!出てくるのもモンスターだ!死霊系のだきっと!なら聖魔法で簡単に倒せる!経験値にしてやるんだ!皆怖気づくな!一方的にやられるんじゃなくてコッチから攻勢に出よう!」
この言葉に伝播している恐怖が和らいだ。そう、ここはゲームの中だった、と。本物の怪奇現象と対峙している訳では無い。
本当に死霊に取り憑かれてしまうと言った事は無く、自分たちの前に現れる存在はモンスターとして倒せる、攻撃をすれば消し飛ばせる対象だと言う事を思い出す。
「よ!よっし!やってやろうじゃないか!ここを初攻略できりゃ俺たち英雄じゃね?」
「イケ・・・る!そうだ!こんなの只のゲームじゃねーか!そうだよ!怖がる理由なんて無いじゃねーか!」
勇ましい言葉を皆が並べる。しかし門の前からは動けない。言葉とは裏腹に足が前に進まないからだ。
「皆!フォーメーションを組むぞ!連携を取るにしたって俺たちは臨時の合同でここに挑むんだから上手くは行かないだろ咄嗟には。だけど急ごしらえでもしないよりかはなんぼかはマシだ!」
コレで全員が各自を守る位置になるような位置に立って互いをかばうと言った体制を取る事を取り決めた。
その取り決めた形でじわりじわりと館の入り口の近くへと辿り着く。
「なんもここまでに無かったな・・・余計に不気味な感じがするけど、大丈夫なんだろうか?」
「おい、お前が最初にいつも怖気づいた言葉を吐くよな?今は我慢しろよ。でも、まあ、言いたい事は解るけどよ。何か出てきてもソレは魔物だ。攻撃するぞ。絶対に勝つ!」
最初に二人、いきなり消されたインパクトとは逆に、門から屋敷の扉への道のりは何も無かった。無かったがプレイヤーたちは「何か仕掛けてくる」と言った気構えでゆっくりと進んでいたので時間が掛かり過ぎていた。
この失敗に彼らが気付けるはずも無い。この屋敷の「裏」にはプレイヤーの精神状態に合わせた「恐怖」を与えると言ったポイントがあるのだ。より時間を掛ければかける程に、ここに攻め入ってきたプレイヤーたちの「恐怖」の解析が進んでしまう。
バイゲルがもちろん強化されている事に因ってこの屋敷のギミックはより強力なものとなっており、これを突破してバイゲルを倒そうと考えるならば「速攻」か、もしくは開幕で「広範囲魔法」での無差別攻撃を仕掛けないとならない。
コレに気付けるプレイヤーが出るのはもっともっと後の事になる。コレが後に「難攻不落」と呼ばれるバイゲルの「恐怖の館」と呼ばれる理由であった。
そんな事とは知りえないプレイヤーが今日も「生贄」として消される事に。
それともう一つ、バイゲル攻略にはありふれたゲームの攻略から少し外れた思考をしないとならなかった。
その理由とは、この屋敷にボスとなる四天王のバイゲルが居る「部屋」は無い、と言う事だ。
バイゲルはこの館をプレイヤーの移動に合わせて変化させている。そう、決められた固定した位置に居続ける訳では無いのだ。
プレイヤーの動向を探りつつ付かづ離れずに移動、そしてバイゲルは同時に攻撃も仕掛けている。この屋敷の全体がそもそも「ボス部屋」と言って過言では無いのだ。
それを理解するまでにかなりの数のプレイヤーがこの先も魔王への「生贄」として消えていく運命である。
そして今回こうしてノコノコと遊園地にあるお化け屋敷感覚でここへ訪れてしまった彼らは、一人、また一人と人数を削られていく。
その消されていくプレイヤーは自分の中の「恐怖」を投影されたバイゲル得意の幻影と邪精霊の「悪戯」のコラボレーションで屠られていく。
そしてとうとう最後の一人が残された。
最後の一人は仲間だった者たち全員の「断末魔」を全て聞かされている状況で生き残った。ある意味ではこの屋敷に入ってすぐに始末された方が運が良かったとも言える状況だった。
そんな現状が、彼の中の最大級の恐怖を生み出す。
「ちくしょおおおおおお!なんなんだよおおおお!このフィールドはァァァァ!?どうなってやがるんだよおおお!」
恐怖のために無限廊下のギミックで走り続けながらその「ランナーズ」のリーダーは喉が裂けんばかりに叫んだ
もちろんこんな地獄にこの屋敷がなるとは、バイゲルがこれほどに強力なボスとなってしまうとは、運営も考えて、想定していなかった事だ。
これ程までの数、プレイヤーが生贄となっってしまった責任の一端は運営にある。
そう、集約してしまえば、この「魔王」が生まれてしまった原因は運営に要約されてしまうのである。




