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何で俺だけ  作者: コンソン
「俺」
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何で俺だけ「恐怖の館、再び」

 彼らはまだこの館の真の恐ろしさを知らない。有名なあのプレイ動画はゲーム内で配信されて有名になりはしたが、アレだけではまだ「他人が経験した」というフィルターが掛かっている。主観映像であったはずなのに、である。

 自分で実際にその様な目にあった訳では無いので、頭の悪い奴らは「肝試し」などと言ってその館の攻略へと出向く者も少なくない数、存在した。

 中には「嘘乙」だとか「演出が過剰」などと言ってそれらの映像がまるで「作られた」と決めつける者すらいる。もし自分が現場に居てもそれほどの恐怖など感じ無かっただろうな、などと否定をする者すらいたりした。この映像は別段作り物で、実際の館は怖いモノでは無い、過剰に演出が入っている、と。

 出てくるのはモンスター、倒せる存在。ここはゲームの中なんだから何故あの赤い服を着た少女に対して攻撃して倒してしまわなかったのか?などの攻略への批判も出ていたりする。


 しかしこれらはこの館の「ギミック」を、そしてゲーム内での裏設定、マスクデータを知らないから言える事であった。

 この館に出向いて意気揚々と攻略をしてやると意気込んで訪れたプレイヤーたちは、その全てが尽くに返り討ちに合っている。


「なあ?前に配信されてた時の動画を幾度も見たけどさ、何かこれ、構造変わって無いか?屋敷の・・・」

「おい、冗談きついぞ?マジで変わってるじゃんか・・・」


 2パーティー、合計で9名のプレイヤーがこの屋敷に今日は攻め入って来ていた。


「なあ?攻略板にさ、ここの情報全く上がってなかったけど、どうしてなんだ?」

「あーそれな。俺もこの話になって自分なりに情報集めようと思って覗いたけど全然ダメだったな。」


 五名パーティー、四名パーティーの合同になったわけだが、四名の方はと言うと、元は六名でのパーティーであるが、2名が「絶対に行かない!」と言って断固拒否してこの場には来ていない。


 五名の方はと言うとここ最近になって一名がパーティーを抜けていた。こちらも六名でのパーティーだったのだが、そのプレイヤーが抜ける際のセリフが「今までどうも有難うございました。」と言った普通の挨拶である。

 まあそこに続けて「もう皆さんとやっていけません。抜けさせていただきます。」だったのだが。


 たったそれだけ。このゲームはパーティーを抜けるのはかなり簡単だ。パーティー加入時は互いにメニューから了承を出し合うのだが、抜ける時は一方的にできる。

 フレンド登録と言う物があり、別段パーティー同士でなくとも個人でゲーム内で連絡や動向をお互いに知らせあえる機能もあるのだが、その抜けたメンバーはフレンド登録をこの時に拒否している。


「なあ?あっちに人影が・・・あれ?や、目の錯覚だった・・・違う!確かに居た!」

「おい、突然大声出すなよ・・・あれ?あいつは?」


 その時には何故か一人居ない。8名になっていた。まだ屋敷の門を通って3mも進んでいない状態で、である。


「嘘だろ!どうやって!?って言うか、不味いぞ!皆仲間を視界に入れるんだ!もしかしたら誰も見ていない奴だけがどんどん消えていく仕様かもしれない!」


 全員が互いに互いを視界に入れる様にと顔を突き合わせる。ホラー作品にみられるパターンの事を言われた瞬間に。


「まずいんじゃないか初っ端からこれ・・・おい、ヤバい・・・なんなんだよアレ・・・」


 そう言って黒い影がゆらゆら揺れているのを目に入れてしまったプレイヤーが言葉を思わず漏らしてしまった。

 たったそれだけ、たったそれだけでこの場の残り8名が一斉にその視線の先の「黒い影」を見ようと振り向いてしまう。油断だ。

 コレは仕方が無い事だった。異常事態を全員が把握し、そして一丸となって対処をする。それが未知との遭遇時に大事な行動だ。ゲームのプレイとして当然の反応だった。

 だけども今回はそれを逆手に取っていた罠である。誰もが皆、その庭に浮かぶ黒い影に目を奪われてしまった。

 そこで叫び声が聞こえる。いち早く気付いた一人がそう声をあげるのだが、時既に遅い。


「お前ら駄目だそっちを見るんじゃねえ!くっそ!また一人消えた!」


 既に屋敷の中に入る前に2名ものプレイヤーが行方不明となってしまう。

 そしてここで残りの全員の背筋を凍らせる出来事が起きる。ソレは。


「ぎいいいいいいいやああああああああ!」


 消えた仲間の声、しかも叫び声。それも「断末魔の如く」な、心の奥底の恐怖を引き出された様な、そんな声。


「な、なあ?もしかしてさ、もしかするとだよ?掲示板にも攻略板にも情報が少なかったのってさ、実際に体験した事を「もう2度と」思い出したくないプレイヤーが書き込まないからじゃ、無いのかな?」


 ソレはもうすでにこの館の攻略を諦めた一人のプレイヤーの震え声だった。


「それで・・・あってると思う。というか、むしろ昔聞いた話なんだけどさ。恐怖を目の前にして声を上げて叫べるのはまだ余裕がある精神状態なんだって。むしろ、そうやって声が出ない様な体験をした時の方が危ないんだとか何とか・・・」


「おい、それって今言う事かよ?・・・確かに心臓がヤバそうだけどさ、そう言うシチュエーションって。あ、そいえばこう言うVRで心臓麻痺で死んだって言う話って・・・都市伝説だよな?」


「それこそ、その話を今言うか?・・・ヘッドギアにはリミッターが掛けられてるからそう言った危険は「皆無」だって聞いたことあるんだが?」


「なあ・・・もう帰ろうよ。俺嫌な予感がす・・・」


「あんぎゃああああああああああああああああー!」


 怖気づいた一人がそう提案をして言葉を最後まで言い切るその前に、またしても叫び声は響いた。屋敷の中からだ。その瞬間にまだ閉じていなかった門が勢いよく「ガシャン!」と言った金属音を轟かせて閉まってしまうのだった。

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