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何で俺だけ  作者: コンソン
終わる日常
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エピローグ「俺の場合・・・」

 あれから25年、そう、悪魔王を倒したあの日からそれだけの年月が経った。

 これまでには語り尽くせない程の色々、様々な事があった。それが思い出される。


「ソレにしたってそんな理由でとか、運営、ちょっと俺に恨み辛みが酷く無い?」


 そう、本日はこの「ブレイバーズ・シャイニング・オンライン」のサービス最終日。

 終わりを迎えるのだ、このゲームが、世界が。俺がずっと積み上げて、作り出して来た物が。NPCたちとの交流が。


「神々がこの世界を見放して、最後っ屁に魔王を消滅させる為にこの世界ごと消すって・・・終わりを迎えさせるのにも、もうちょっとこう?マシなバックストーリー考えろよ・・・」


 この「終わらせ方」はもちろんプレイヤーにしか知らされておらず、コレをNPCなどに漏らす様な事ができない仕様である。

 もしソレを話そうとしたならば即座にアカウント停止が入ってプレイヤーは強制排除。世界観保護の為だ。運営、そこまでするか?とコレに誰もが唸ったものである。

 このゲームを長くやっていればいる程に、NPCが「本物」であるかの様に錯覚しそうになるのだが、所詮はゲームの中の電子的な仮想現実。

 別れを惜しむのはしょうがないにしても、コレを阻止などと言う事は不可能だ。


「あー、ホント、長年楽しませて貰ったけどさー。どうしても、残しておきたい、って気持ちが心の中に有るのはどうしようもないじゃんね?」


 魔王国は発展した。国土を広げた。プレイヤーにも開放し、より一層の盛り上がりを見せた。

 活気があった。いつも新しい何かが生み出されていた。最後の最後までこの魔王国は俺の想像を超えて行っていた。

 運営が発表するイベントや新ストーリーなども巻き込んでこの魔王国はその内にこのゲームの中心となっていた。


「ソレをなぁ。もう後10分で全て跡形も無く消えるんだろ?美しく輝かしい楽しかった思い出も、苦労も、苦しみも、喜びも、怒りも、それらは君の頭の中に何時までも残り続けるって?ソレは、まあ、そうだけどさ。」


 悲しい、哀しい、只々、虚しい。そんな気持ちが胸に去来する。


 今は玉座の間には俺しかいない。一応は俺が呼ぶまで誰も入って来ない様にと言い付けている。

 コレも数年前までは引っ切り無しに「魔王!勝負だ!」と言ってプレイヤーが押しかけてきていたものだ。何百戦やったか?途中まで数えていたのだが。確か百回を超えた辺りでカウントするのを止めた。多分軽く千回は超えていると思う。正直、覚えていようとする事自体が面倒だった。


 まあそれらのプレイヤーとの戦闘で一度も負けた事何て無かった。そしてソレは「運営の過ち」とか「ネトゲの闇」とか「レジェンド」とか「無理ゲーの極み」とか「クソ魔王」とか「運営クソゲー」とか「歴史に名を遺す」とか「有って無い様なもの」とか、いろんな表現をされたモノである。

 このゲームの初期から「魔王編」はメインストーリーだったのにも関わらず、これまで誰にも攻略が不可能であったと。


「ソレは俺のせいじゃ無いんだけどね・・・でも、まあ、運営のせいでも無かったんだろう、ここまで来てたら。」


 最終的にはプレイヤーに「運営は最初からクリアさせる気が無かった」とまで言われている。

 これまでに一度だってこの「魔王」に関する修正は入らなかった。プレイヤー側にはアップデートがそれこそ繰り返し繰り返し、頻度ヤバい、と言われるくらいにあったのにだ。


 いつかは終わりが来る、それを分かっていた。解っていたのだが、それでも積み上げて来た一瞬が全て消えてなくなる事に叫びたかった。


 何時までもこの世界に浸っていたかった、と。


 それでも時間は無情に過ぎていく。もう残りあと4分だ。残り時間は少ない。今日が終わるその時が、この世界の終わりだ。


 最終日の前日にはもう俺はやり残しが無い様に、未練が残らない様にと思い付く限りの事を実行していた。

 とは言ってもかなり以前からこの魔王国は俺の手から離れていたと言っても良い。

 その時には俺はこの国の象徴と言う形であった。君臨すれども統治せず?だったか。そうなったら俺のやる事など無いに等しくなっていた。


 だから俺は心残りが無い様にこの魔王国の隅々まで見て回り、この目にその光景を焼き付けてからこの玉座の間に入った。

 この魔王国の各地に出張していた国民には御触れを出して今日と言う日には帰ってくる様にと言ってある。お祭り、それを開催するから絶対に戻って来いと。終わる日を盛大に祝うのだ。


「まあそんな事をしたってやっぱり最後の最後までは終わって欲しくない、って思っちゃうのは許して欲しいよな。」


 誰に許しを求めるのか?神様か?寧ろ運営がブッ込んで来たイベントの中に「神殺し」があるのだが。

 この世界の神様の一人が独断専行して魔王をブッコロしに来ると言うストーリーの運営の俺に対する殺意がビンビンなそのイベント。

 まあ説明は省くが、色々とあって俺がその「神」を返り討ち。そんな結果で終わっている。

 どうにもその結果が運営は気に入らなかったらしく、堂々と最後の最後にこの様にこのゲームのサービスを終わらせる理由に「お前が悪い」とでも言わんばかりに俺を出汁に使って来ると言う。どれだけなんだよとツッコミたい。


「残り一分か。この一年でこのゲームの遊戯人口が断崖絶壁に落ちたからなぁ。それでもここまで長年続いて来た事は奇跡に近いけど。」


 運営が突然にアップデートもイベントも入れなくなった時期があった。そこであれだけ居た遊戯人口はそれこそ直滑降の如く真下に落ちたのだ。かなりの高さからゼロ近くまで。

 そのタイミングはちょうど他社から新しい大型VRゲームが発売されていて、そちらに人口が移ったのだと言うのが掲示板で騒がれていた。

 多分計算されていたんだろうと思う、素人考えでだが。運営はこのゲームを良い加減終わりにしたかったのだろう。

 もしくは会社の経営方針が変わったのか、どうなのか?トップが変わったとか?でもそう言ったニュースは流れていなかったような気がする。

 まあそこら辺の内部事情はそう言った事に詳しい者が考えれば良い話だ。


「あと30秒・・・あ、泣きそう。」


 もうミャウちゃんにも、マイちゃんにも、ゲブガルにも、ライドルにも、バイゲルにも、シャールにも、ボッズにも、ドウゴンにも、メグロムにも、マルスにも、キリアスにも、ベルガーンにも、その他もっと沢山のNPC達に、もう二度と会えなくなると思ったら泣きそうになって来た。

 でも非常で無情、時間は残り10秒を切った。


 目を瞑らずに我慢した。俺は泣きそうな気持を抑え込みつつ目を開き続けた。この世界の終りのその瞬間までを心に焼き付けようと。

 頭の中でカウントを取る。時間が来たら俺の意識はこの世界からはじき出されて現実の身体に意識が返るのだ。


(8・7・6・5・4・3・2・1・0・・・ん?)


 俺の思考は真っ白になった。そこは真っ暗闇でも、ましてや俺の現実の身体にも意識は戻っていない。


 まだ「魔王」のまま。目の前には変わらない光景、玉座の間。


「・・・おい、どうなってるんだ?サーバーの故障?運営の手違い?俺が最終日を間違えてるって事は、無いよな?」


 俺はステータス画面を呼び出す。それはちゃんと出て来た。その日付を見てしっかりと最終日から日付が過ぎた事を表示していた。時間もとっくに過ぎている。

 それなのに俺はこの「魔王」から意識を引き戻されていない。自分の現実の身体に戻っていない。


「・・・ログアウトが、無い?え、ここに、あったよな?確実に、あった、はず・・・無い!?」


 ここで俺の脳内にはヤバイ想像が浮かんできた。慌てそうな心を意識して抑え込んで自分の今の状況を確認しようと深呼吸をする。


(デスゲーム?いや、終わるゲームでそんな事あるか?)


(じゃあ何だ?ここはするってーと現実なのか?いや、それは無い)


(は・・・は・・・まさか、異世界転生とか、言わないよな?この姿のままで?それは悪い、それは悪い冗談にも程があるって・・・)


 確定したくない、でも確認しなければ現状の正確な判断は難しい。と言うか、夢であって欲しい。

 俺はステータス画面をいじりまくる。隅々まで、それこそ血眼になってログアウトを探す。けれども。


「無い・・・嘘だろ?嘘だと、誰か言ってくれ・・・はっ!?そうだ!これが夢なら良いけれど、強制ログアウトになる方法を試してみれば!や、やったるぞー!」


 俺はミャウちゃんを呼ぶ。そう、呼んだのだ。そこに妙に生々しい現実味の、存在感の増したミャウちゃんがやって来た。

 VRの中のミャウちゃんよりも一段も二段も「生きている」感が出ているのが信じられない。

 ゲームの中もそりゃどのNPCも見た目はリアルだった。しかしその「リアル感」が全く何と言って良いか、別物なのだ。


「魔王様、どうなされましたか?ご命令とあれば何なりと。この身、この魂の全ては魔王様の物でございます。」


 いつものミャウちゃんのいつものセリフ。俺にコレは戸惑う。これから自分がしようとしている事に気後れして。


「あ、えーと、うん、ちょっとミャウちゃん俺が良いって言うまで目を瞑っていてくれない?ソレと、これから俺がする事に過剰反応しない様に。只の確認作業だから。」


「はい、畏まりました。」


 俺の言葉に何ら疑う事無くミャウちゃんが目を瞑って不動になる。


(初めて会った時からずっとミャウちゃんはこの態度を変えなかったよなぁ。今までありがとう。と、そうじゃない。・・・つか、何でこんなに妙に艶があるのミャウちゃんの肌。こんなだっけ?違うよな?)


 今はそう言った細かい所を確認している場合では無い。俺は今からやってはいけない事をするのだ。それは。


 レッドカード行為である。ぶっちゃけて言ってしまえば「セクハラは一発退場」である。

 コレをしたならば流石に強制ログアウトを受けて即座に俺はこの夢の世界から現実に引き戻されるはず。そう思っての事だ。


 そして俺は正常な精神で覚悟を決めてミャウちゃんの胸を指で突いた。優しく、それこそ赤ん坊の頬を撫でるかの様に。

 俺のこの「魔王」はデカイ。だから手もド級にデカイ。なのでこうしてミャウちゃんの胸を触るに指先で優しく触るくらいが限界だ。


「!?・・・はっ・・・うぅんん!?」


 ミャウちゃんがもの凄く色っぽい声を出す。そして俺の指には柔らかで、それでいて適度な反発力が感じられる胸の感触が。


「ま、魔王様、コレは・・・一体・・・?」


 ミャウちゃんが普段は絶対に見せないであろう憂いを帯びた赤ら顔になる。そしてその瞳は潤んでいた。

 合図をするまでは目を瞑っていてと言ったが、流石にミャウちゃんも俺のこの行動には驚きで目を開けてしまいこちらに熱視線を向けてきている。


 しかし俺はそんな視線に構っていられなかった。それ所では無かった。目的が達成できなかったからだ。


(まさか・・・そんな馬鹿な・・・)


 ステータス画面は静かなまま。一切の警告も訪れない。普通ならここで激しい警告音が鳴るはずなのだ。そして一瞬で俺は消え、アカウント停止となっていたはず。


(他に同じ事になっているプレイヤーは?居ないのか・・・?)


 俺は一部で友好関係を築いていたプレイヤーを探す為にメニュー画面から通信モードを開いて確認を取ろうとした。

 しかしそこには灰色に名前がなっているプレイヤーネーム。コレはログアウトしてゲーム内に居ないと言う意味を指す。


(まだだ!まだ終わらんよ!)


 俺は自分のこの「魔王」の能力を使用してサーチしてみた。

 魔物やプレイヤーを察知できるレーダーが目の前に出てくるのだが。


(規模を世界隅々までに設定していても・・・プレイヤーの、反応が、無い?)


 俺は世界隅々までこのサーチを広げたのだが、プレイヤー反応が無い処か、どうにも俺が知っているゲームの大陸の形をしていない。コレに俺は一瞬驚いた。


 それどころかもっと細かく詳細を確認したらこの「魔王国」がそのまま何も変わらない形で存在し、しかも魔族もエルフもドワーフも獣人もその他もろもろ、この国の住人は何もかもが全く誰もが誰も何も変わらず存在いたのだ。

 消えていない。ゲームの終わりと共に全てが消えていない。


 俺はゲーム終盤でこの「魔王」の能力を限界突破、最大強化にまで進化させていた。サーチと言うのはまさに「神」と言える代物で。俺はこの力でこのゲーム世界隅々まで知る事が可能だった。

 この能力は「神殺し」のイベントを終えた後に身に着いた物だ。そしてその能力で探してみても、プレイヤーが、居ない。

 この結果は最悪を意味している。俺しかいない。しかも何故か分からないが、どうにもここはゲームの中でも無い。ゲーム内設定の大陸の形と全く違う大陸のど真ん中にこの「魔王国」はある。


「あの、魔王様?如何なされましたか?」


 ミャウちゃんの俺を心配する声が玉座の間に響いた。プルプルと震える俺の異常を察しての事だ。

 だけども俺はもう今のこの状況を呑み込むしかない。結果は出てしまったのだ。どうやら「ここ」にはプレイヤーが俺一人しかいないと言う事が。


 この状況がどの様にして成ったのかは分からない。どうしてこうなってしまったのかも分からない。こんな事が起こり得る何てそれこそ信じられる訳が無い、信じたくも無い。けれども現実は非情だ。

 もう起こってしまった。既に事は起きたのだ。フィクション、ファンタジー物語の様な展開が、この身を襲ったのだ。


 これには只々、俺は思わず心の底から大声で叫んでしまった。


「何で!?俺だけ!?」


 その声は玉座の間を震わせるばかりで虚空に消えた。


 ~~~~~  ~~~~~~~ ~~~~~~~~


 終わり

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― 新着の感想 ―
[一言] よもやよもやのオーバー◯ードオチwwww 賛否両論ありそうだけど俺は肯定します。 長い間お疲れさまでした。
[良い点] 完結ありがとうございます。 最後のタイトル回収に笑いました
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