攻略!悪魔王編!「やっぱり最後の美味しい所は」
イベントは終了した。そう、終わったのだ。
この場に存在する誰もが唖然とする。悪魔王が放つはずだったあの黒いドームが何時まで経っても放たれないから。
しかしそれが何故なのかを僕以外が誰も理解していない。できていない。
(やっぱりかぁ・・・まあ最後の最後でしょうがないタイミングだったと言えば、それはそうなんだけど)
悪魔王の動きがピタリと止まってそのまま動かないのだ。そしてその時間がたっぷりと10秒近く過ぎてから悪魔王の首がポロリと落ちた。
プレイヤーたちはコレに二度目の唖然だ。どうしてそうなったのかの理解が追い付いていない模様。
しかしコレをやった犯人の目星が僕には付いている。と言うか、確実に、これ、魔王だ。
そしてここで何の感動も無く目の前には「イベントクリア」それと「リザルト」の画面が浮かび上がってくる。
その画面越しに悪魔王がさらさらと黒い光の粒になって溶けて消えていく。
そして次には最終決戦フィールドからの離脱のカウントである。残り三十秒。現実は無情だ。運営は非情だ。
これでやっとプレイヤーたちが動き出す。何がどうなっているのかと口々に言い出して誰もが誰も騒ぎ出す。
その中に喜びの声などは無く、嬉しさの声も無く、安堵の溜息も無い。只々戸惑い、困惑する声だけが湧いては沈む。
(魔王がどっかで隠れて様子を見てたんだろうなー。かなりの遠距離から悪魔王目指して全力ダッシュして首チョンパ?多分それしか無いんだよなぁ・・・)
魔王の全力での瞬発力、そしてダッシュ速度なら残像すら残さずに悪魔王と交錯してそのまま通り過ぎて誰の目にも映らなかっただろう。
僕は誰がこんな真似をしたのかの予想ができたからまだいい方だ。事の瞬間を僕は目撃していて「あ、何かもの凄く細い光る筋が走った」と分ったくらいで。
ずっと悪魔王の動きの観察を目を逸らさずに続けていた僕ですらその程度しか認識できなかったのだ。他のプレイヤーには何が起こったのかの理解なんて無理筋である。
(まあ発動前のあのタイミングを逃さずに斬り掛かったタイミングは絶妙だったし、ある意味賭けだよね?)
恐らくは魔王も魔王で最後の最後、最大のチャンスだと思っての行動だったんだと思う。
その為の準備もずっとしながらその機を待ち続けていたんだろうきっと。
(あー、何か「勝った」って気が全くしないや)
時間が経過して僕はこのイベントフィールドに移動する前の場所に戻って来た。魔王の城、その玉座の間だ。
僕と魔王はここで一緒に同時にフィールドインしたのだ。横を見れば変装セットで見た目がプレイヤーになっている魔王がいた。
「いやー、危なかったねー。最後のアレは発動してたらプレイヤー多分もう駄目だったでしょ。勝率の高い賭けだったと自分で勝手に思ってるけど、失敗しないで良かったよ、マジで。」
「あー、やっぱ止めは魔王が入れたのかー。で、最後の一撃、成功率は?」
「八割。悪く無いでしょ?え?失敗の二割は何が原因で起こりえたのかって?あー、それは俺がタイミングを外した場合だな。踏み込みと、剣を振るのと、狙い処を外した時?かな?」
「どれもヤバいでしょ魔王・・・」
寧ろもっと成功確率低かったのでは?と僕はツッコミを入れたかったのだが、言うのを止めた。
もうイベントは終わり、そしてソレはプレイヤーの勝利となったのだから。全ては過去である。ここで何を言っても無意味になるだけだ。
さてこれで「悪魔王編」は全てクリア。短かった様な、早くクリアし過ぎな様な。
そして僕らの前にはまだリザルト画面が出っぱなしなのは報酬の受け取りがまだ終わり切っていないから。
「うん、やり過ぎだった。全ての感想はコレに尽きるね。主に魔王が。」
「え?全部俺に責任押し付ける気なのケンジ?それは違うでしょ。ケンジも相当にやらかしてるからね?」
僕らはワイワイとお互いへツッコミを入れながらリザルト画面を操作して貢献ランキング報酬を受け取って行く。
ここで魔王が気の早い事を言ってくる。
「悪魔王編はこれで終わっちゃったけど、次のイベントか、或いは追加ストーリーとか、楽しみだな。運営が次はどんなの用意して来るかね?はい、じゃあ直近で何が来ると思うケンジ?」
「もう次の事?もうちょっと今回の反省をしてからその話をした方が良いと思うけど?特に魔王は自重しよう?大事な事なのでもう一回言う。魔王、自重しよう?」
「いやー、楽しみだなぁ。楽しみだなぁ。」
「あ、コイツ反省する気無いな?」
こうして「悪魔王編」は幕を閉じた。