攻略!悪魔王編!「止められるのか?責任重大」
僕らが近づく直前に第二形態の悪魔王「黒狼」は大きく遠吠えするかの様な動きをして見せた。
だけども吠え声は全くこの耳には入って来ない。その代わりに。
「・・・!?魔王!そっちは聞こえてる!?」
「え?何ケンジその質問?どうしたの?」
「今僕は「右耳」が聞こえない!」
「・・・は?さっきのって、もしかして状態異常攻撃?」
どうにも魔王には通じていない様だったのは幸いだが、コレは状況がより悪化している。
片方、或いは両方、耳が聞こえないのは相当ヤバい。
周囲の状況を音で確認できないと言うのは危険なのである。
また、片方だけ聞こえないと言うのも両方聞こえないのと同等と言って良い程に危険である。耳で聞く感覚を大きく狂わせるからだ。
コレは両耳がハッキリと聞こえない場合よりも気持ちの切り替えがしにくい。なまじ片方が聞こえてしまうからそれに頼ってしまったり、意識がそちらに持って行かれてしまうからだ。
最初から両方聞こえなくなってしまえば早々に諦めもつく。しかし片方だけとなるとその「切り捨て」をするまでの時間がより長引いてしまう。
この混乱は「黒狼」に有利だ。そのプレイヤーたちの狼狽を「黒狼」は見逃さない。
「ぎゃ!?」「ぶべボっ!」「ひぎっ!?」「ぐああああっ!?」「え?あげっ!」
「おいそっちに行ったぞ!」
「は?何て言ったんだ今!聞こえねー!」
「防御陣形を!」「え?何だって?」「だから円陣を組むんだって!」「ちょ!聞こえな・・・あべらぶっ!?」
「仲間がやられた!くっそ!早過ぎて捉えられないぞ!」「いつの間に背後に回り込んで・・・ぐあっ!」
プレイヤーたちの中でまるで楽しそうに跳ね回っている「黒狼」は動き回り続けてより一層の混乱を引き出そうとする。
しかしコレを止める事ができずにいるプレイヤーたちは半ば自棄になりつつ「黒狼」を狙い攻撃をする。
だがこれらは虚しく避けられてしまいプレイヤーの同士討ちに。とは言ってもクラン仲間同士の攻撃はダメージにはならないのだが。
しかし威力が高いスキルや魔法が地面に着弾、或いは仲間に着弾して爆発すればそれが視界を遮り塞ぐ原因となり余計に「黒狼」の捕捉を困難にさせる。
「魔王は動きの予測は?」
「予測は無理かもしれないけど、追いつく事は出来そうだな。」
「捕まえて動きを制限できる?」
「相手のパワー次第かな?この「姿」だと完全に止めるってちょっと難しそうだし。」
魔王は「変装セット」で姿を変えている。これが本来のままの大きさの魔王だったら正面から真っ向から受けて掴み止める事ができただろう。
「僕は魔王の陰に隠れながらついて行くから、攻撃できる隙を作れそう?」
「大丈夫そうかな?俺が攻撃を仕掛けてもギリギリで避けられちゃいそうな感じするんだよねー?勘だけど。一撃入れるのに失敗なんてしたら、そうなるとその後は警戒されて泥沼戦にされそうだからケンジに全てが掛かってるかな?」
「僕の攻撃が失敗した時はフォロー宜しくね?ソレと、成功した時も追撃お願い。成功しても通じない場合もあるかもだからその時もね!」
「お互い失敗はしたくないねぇ。と言うか、俺の方がどっちかと言うとそれ責任重くない?」
こうして僕らは相談をしながら慎重に、かつ他のプレイヤーの陰に隠れつつ「黒狼」に近付いた。
しかしここでやっとプレイヤーが落ち着きを取り戻し始めた頃には「黒狼」が次の攻撃モーションに移っていた。