何で俺だけ「他の場所はと言うと?」
ミャウちゃんに任せたあの一帯は一応はまだプレイヤーがそれほどの数押し寄せてきてはおらず、大きな変化は出ていない。
流石はミャウちゃんだ、と思う。アレから三日は経ったが、あれ以来さほど重要な報告をミャウちゃんからは受けてはいない。
時々現れる「変態」集団がいるらしい。そいつをサクッと罠に嵌めてキルしていると言う。これくらいだろうか。
さて、その三日間では別段大きな変化などゲーム内では起きてはいない。寧ろ、起きるはずが無い。
残る三人の四天王はそもそも全て最大までの強化を終えていた。それに対抗するにはプレイヤーも最大レベルにまで上げ切っていない事には対応はしきれないだろう。
今の所まだまだ運営はプレイヤー側の最大レベル上限解放のイベントを出してはいなかった。
ギリギリで複数のパーティーが組んでやっと対等になれるか?と言った所だ。本来ならこれくらいの状況だと最先端を行く攻略パーティーがゲブガルに挑んでいてもおかしくはないと思うのだが。
「それでもまあ、多分その準備を今してるんだろうな。必死で。」
俺は今日も仕事を早上がりで終わらせて自分の時間を確保している。やはり上がる時には周囲の決まった奴らが俺へと一言物申してきたのだが。
それに俺は「そう言うんだったらお前が会社のルールを変えれば?」と言い返してやった。コレにカチンときた同僚の顔を見る事無くその場を俺は消えたが。
「大事なのは俺の自由なんだよなあ。賃金貰った分はしっかりと働いてるし、むしろ熟してる仕事量は別に最低限しかやらない、とかじゃ無いんだけどな。」
あくまでも俺は会社がちゃんと回る為、回す為の仕事量はキッチリとやったうえで、それよりも多少は多めに仕事は熟している。
それは当たり前、普通の事だ、などと言われたら、それはお前の考え方であって、俺のじゃない、と言ってやるつもりではある。
「まあこうしてログインしても今はミャウちゃんは出張中だし、誰も居ないけどね。」
マイちゃんは療養中だ。部屋に閉じ籠って精神を落ち着かせている最中だ。あの「変態」共がこの城には絶対に入ってこれない、という安心が、今のマイちゃんには必要なのだ。
「さて、他の所ってそもそも気にした事無いな?ライドルの所ってどんな感じ?」
俺は四天王へと念話を繋げる。この魔王の「スキル」は便利だ。音声チャットである。
『はっ!こちらは依然として異常無しです。深い森の奥に建つ塔で目立ちはするのですが。にも関わらず、私の所にはプレイヤーが一向に来る気配がありません。一応は私の攻撃が届く範囲に入ってきた者には狙撃を敢行しております。どの者も一撃で屠る事ができています。時々盾で防いで強行突破してこようとする者も見受けられますが、そう言った者には森に居る魔獣軍を差し向けて包囲し殲滅をしております。』
「うん、それってかなり無理ゲーだな。容赦無いね。とりあえずそのやり方でこれからも頑張ってくれ。」
俺のこの返しに「は!必ずや魔王様の御役に立って見せまする!」と気合の言葉が戻って来る。
きっとライドルは自分の攻撃範囲、と言ったモノを考えに入れていないんだろう。掲示板情報によるとその塔からかなりの距離がある場所で突然プレイヤーが消えた、と言った目撃情報があると載っている。
おそらくはそのプレイヤーはライドルの「凶弾」に倒されたのだと思われた。
(あまりにも今の段階じゃプレイヤーには無理ゲー過ぎるな。運営、大丈夫なのコレ?)
もしかしたらクソゲー認定されてこのゲームを遊ぶ人口が激減する、などと言った場合はこの魔王の意味も虚しいモノと変り果てる事になる。
それは避けておきたい所だった。だったが、もう俺がしてしまった事は覆らない。今の所はゲーム人口が大幅に減った、などと言った話を掲示板で聞かないのでまだ安心ではある。
「むしろ増えてるって言うくらいだからなあ。出荷本数、増やしたんだろ?そんな人気なの?このゲーム?」
増々ゲーム人口が増えるのは良い事なのだろうが、俺にはコレに申し訳ない気分が湧き上がってくる。
「まあ、言うなれば俺の「魔王」ってチート染みてるしなあ?動けないって言うのはあるけど。あのルーレットにはまだ何か隠されてるのかも知れないけど、それは俺の知れない部分にあると思うし・・・」
俺は次にバイゲルの方に現状を訊ねてみる。
「あー、バイゲル?そっちはどう言った感じになってる?プレイヤー、来てる?」
『は!魔王様!こちらには多く、とは参りませんが、ちらほらと団体で来る者たちがたまに来るだけです。もちろん、そ奴らは各個に分断して孤立させて各個撃破をしております。確実に屠り、魔王様の御目覚めの生贄として始末しております。』
「お、おおう、そうか、大儀だね。うん、これからもプレイヤーたちをドンドンとやっちゃってくれ。俺も早くこの椅子から立ち上がって世界を旅してみたいし?あ、だけど無理はしちゃだめだよ?危なくなったら命大事に、で逃げて来てね?」
『は!魔王様の御心遣いに感謝します・・・今侵入者を確認しました。失礼ではありますが、ここで通信を切らねばならない事をお許しください。では。』
と言い終わるか終わらないかと言った絶妙なタイミングで「ぎゃあああああ!?」と言ったプレイヤーだろう叫び声が聞こえたのだった。




