攻略!悪魔王編!「甘えが出ればその隣には死が手ぐすね引いて待っている」
空が赤黒く染まっていく。コレは要するに。
「やっとの事、悪魔王とご対面って事かぁ。・・・お?バフォルが変化し始めた。おぉ~、見応えあるなぁ。」
先ずは空の色が変化した時点でバフォルに群がっていたプレイヤーたちは一瞬で吹き飛ばされた。
バフォルから出る荒れ狂う黒い衝撃波で面白いと感じる位にあっけなくプレイヤーたちは宙を舞う。
その後のバフォルは身体から赤い光を発しつつも徐々にその身体を巨大化させている。
「なあケンジ?何段階変身すると思う?」
「え?ソレを今このタイミングで予想するの?もしかしてそんなのは無いかもしれないのに?」
「いや、お約束でしょ?絶対にあるって。」
「いや、体力が減ると何段階かに分けて攻撃パターンが変化とかじゃ無い?」
「いやいや、ソレも併せて変身もするでしょ。だってさ、予想としてこのイベント難易度MAXだろうし?」
「いやいやいやいや、それだったらソレで多分今居るプレイヤーの数でも足りなくなりそうじゃない?そうなっちゃうと。」
「そこは、ほら?俺たちが途中途中重要なポイントでお邪魔して行けば何とか?」
「楽観視し過ぎじゃない?最初から飛ばして僕らも戦闘に参加するべきパターンかもよ?」
「第一段階はプレイヤーに任せられそうだから最初は様子見でしょ。最悪第一段階のHP減った時の行動変化で参加し始めれば良く無い?」
「HP何割に削られるとソレが出て来るか分からないし、そこはもうちょっと早めに・・・って、あ。」
俺たちが呑気な会話をしている間にバフォルの変身は終わっていた。
そこにはそもそもバフォルを10m位に巨大化させた様な存在が現れている。
『復活の時きたり。我は悪魔王。バフォルよ、よくぞ最高の状態で我を復活させる事に成功した。褒めて遣わす。さあ、憎き神どもの先兵たちの叫び声でコレを祝おうぞ。さあ、目覚めの運動に丁度良かろう。かかって来い、ゴミ虫』
この言葉で戦闘開始の合図としたのか、プレイヤー側は最初にあらかじめ組んでいた陣形を崩す事無く悪魔王に突撃していった。
「ねえ、最高の状態だって。どうしよう?この「球」って何時使い道があると思う?」
「いや、知らないよ。魔王はどうなの?大体どこら辺、って感じで分かってる事は無いの?」
城ではこの「球」の研究は進めていたのだが、全くサッパリ使い処が分からない。
ポチのパワーアップには使われたのだが、俺は「ジョブ」がテイマーでは無いのでこの場にポチは連れて来れていないのだ。
もしかしたら戦力として投入できるかと思っていたのだが、そこまで甘い事を運営はさせてくれないらしい。
ちゃんとシステムとして、テイマー系で無いとこの特殊イベントフィールドには使い魔やら従魔の類は連れては来れないらしい。
掲示板で前回のイベント時の件でテイマー系スレッドを覗いて情報を仕入れたのだが、そちらではちゃんと従魔を連れて参加できたと書いてあったので羨ましいと感じてしまった。
(ポチが連れて来れていたらその背中に俺が乗って「ライダーごっこ」とか楽しめたかも知れないのに)
今更なクダラナイ事を考えつつも戦闘情勢を見守る俺。ケンジはちょっとだけハラハラした気持ちで観戦をしているらしく、ちょっと顔だけ突出して若干前かがみ。
とここで初っ端悪魔王に動きがあった。片手を無造作に振ったのだ。
その一振りで近づいて来るプレイヤーをあっと言う間になぎ倒してしまう。
バフォルが変身する時に見せたあの黒い波動?衝撃波がプレイヤーを襲ってコレに多くの者が吹き飛ばされてしまったのだ。
「アレは風系統と闇系統の耐性が高く無いと防げなさそうじゃない?魔王、ちょとコレは最初からヤバげでしょ・・・」
どうやらこの攻撃は威力はたいして無いらしい。吹き飛んだプレイヤーは直ぐに復帰して見せるのだが。
しかしコレを連発されたら近付けもせずにHPだけをジリジリと減らされるだけでこちらの攻撃を悪魔王にぶつけられない。
どうにかこれに対策できないと深刻な状況になるのは目に見えている。だって、どうにも悪魔王は「溜め」にこの時に既に入っていた様だからだ。
「全体攻撃って感じかな?しかも大技っぽい。もしかしてこれって最初のバフォルの変身前に全周を囲って変身完了後に一斉にオールレンジ攻撃を仕掛けないとダメだったパターンじゃね?」
敵の大技をキャンセルさせるにはダメージ蓄積によるダウンを取るのが鉄則だ。その為には下準備が必要だった。
最初からプレイヤーは選択肢を選んでいる場合では無かったと言う事だ。この悪魔王の動きを今更止められそうもない。初見殺しと言って間違い無いと言った感じだろう。
「魔王、止めた方が良く無い?」
「そうだね、じゃあ俺とケンジ、どっちで行く?」
「僕の場合だと丸薬を使用しないと止められそうに無いし、魔王が行ってよ。」
「はぁ~、まあ、しょうが無いか。プレイヤーの勝利で収めたいからね。とは言っても、俺がここで出て行くとプレイヤーの気が緩々になるよなぁ~。」
危険が迫ったら助けて貰える、そんな気持ちで戦闘をするのは確かに自らのポテンシャルを余り無く引き出す為には必要だったりもする要素だ。
緊張感でガチガチになって普段の力が出せない、何て事になるのは誰も彼もが面白いモノじゃない。
いざとなったら助けて貰えると言う安心感は全力を出すのに持って来いなのだろうけれど。
けれども多少の緊張感もまたコレと同じ効果を生む時もある。緊張感を持ち続ける事と安心感を得る事、どちらも良い事で、どちらがより良いとは言えない。
けれども今回の事でプレイヤーたちにその緊張感が無くなってしまう事態になったら?
敵の動きを気にしないで全力ブッパしていればいい、などと勘違いして死に戻り回数が増える可能性が出る。
誰もが誰も自分の危機に自らが積極的に対処する事を気にせずに動けば、避ける事にすら気を配らなくなりそうだ。
そうなったら寧ろこの戦闘ではマイナスになる。それが重なりに重なって行ってしまえば、このイベントは最終的にプレイヤーの敗走で終わるだろう。
「じゃあ行ってくる。ケンジも丸薬の用意はしておいてくれ。俺の一撃でキャンセルでき無かったら即座に入って来てくれ。」
俺のこの求めにケンジは一つ頷いて「いってら」と見送りの言葉を口にした。