攻略!悪魔王編!「邪魔しちゃ悪いよ」
遠く離れた場所にポツンと只一人、現れた人物がいる。
開始合図があったその後直ぐにプレイヤーたちの敷く陣形の遥か前方に現れたその者を俺とケンジは良く知っていた。
そしておそらくだろうプレイヤー全員にこの声が聞こえている。
『ようやく準備が整いました。やっと、やっと、コレで目障りな、そして憎たらしい貴方がたプレイヤーを消し去る事が出来ると思うと嬉しい限りです。ですが、それ以上に、悪魔王様の復活にこの身を捧げる事ができる事が、私には何物にも代えがたい喜びなのです!』
バフォルだ。現れたのは。しかもどうやら自分を身を悪魔王の生贄にでも捧げるのだろう、そんな事をのたまう。
「もしかして、バフォルの準備ってコレの事?・・・イベントでプレイヤーに倒された悪魔が復活の贄?」
「プレイヤーも多くやられていたからソレも悪魔王復活の材料になってるんじゃない?」
俺とケンジの予想を合わせたものがどうやら正解らしい。
『お前たちは悪魔王様復活の儀式に使われているとも知らずに大量の命を散らした。悪魔も、神の使徒も関係無い。争い潰し合うと言う行為そのものが、復活の為の力となるだ。それをこの私の身体に収束すれば・・・』
まるで大きな「黒い星」それがバフォルの真上に存在していた。それが堕ちて来る。バフォル目掛けて。
「なあ?ケンジ?これって阻止できないのかね?あれ、俺が吸収できないかなぁ?」
「止めて差し上げろ下さい。魔王、ちょっと空気読んで?もしかしてできるかもしれない、って所が怖いから。」
鋭い眼差しと強い口調でケンジに突っ込まれた。別に俺はコレを本気で言った訳じゃ無い。しかし。
「動けるって言う事はもしかしてソレができる可能性が残ってるって事なんだろうなぁ。まあでも、第十悪魔の「逆さ城」みたいに俺の力でも壊せない「壁」があったりしたら無理だろうけど。」
そう、俺たちは別にイベント強制の停止状態にはなっていないのだ。なのでバフォルの邪魔をしようと動こうとする事は出来る。
けれどもコレは最終戦、そんなちゃちな子供騙しみたいな事が通るなんて考えられない。このイベントの為にバフォルにはバリアが張ってあって目の前の出来事を止める事はきっとできないんだろう。
その「黒い星」は巨大でプレイヤーが作った出城程度は呑み込めてしまう程に大きい。
堕ちて来るそれがギリギリの高度を保って停止した。と同時にそれから細い糸の様なモノが伸びてバフォルに向かって伸びていく。
どうやらこの「黒い星」が悪魔王復活のエネルギーなのだろう。それをバフォルがその身に吸収して悪魔王をこの世界に受肉させる生贄となると。
ここで俺では無く、空気読めない、と言うか、読まないプレイヤーが突出してバフォルに攻撃を仕掛けた。
陣形を組んでいて突撃を開始したのだ。コレは要するに。
「ヒーローなんて変身前にぶっ殺せば?って平気で言えちゃうお約束を守らない奴らの集まりなんだろうなぁ。」
特撮ヒーローものは今の時代も人気コンテンツ。そして必ずコレに何時の時代もツッコミを入れる馬鹿がいる。
【変身前は滅茶苦茶弱いんだから、暗殺でも何でも手段を選ばずにヒーロー殺せよ、お前ら悪の組織だろうが?毎回毎回変身されてやられてるんだからそれ位学習しろよ?何で真正面から堂々と戦うんだよ?アホなの?やられる前にヤレ、って鉄則だろ?勝つ気無いとしか言えないじゃん。お前ら本気出せよ。やられるのが趣味なの?ドエム?こう言うの見てるとさー、馬鹿馬鹿しくなるよね。悪の組織って、ナニ?みたいな?お前らの目的大体は世界征服なんだから、そんなヒーローのちっぽけな小さい組織なんて呑み込める程大きいはずなのに笑うしか無いだろ。ヘボ過ぎって。無能の集まりかよ】
こういった内容の事を平気で口にする。これには色々と俺も言いたい事があるし、ケンジはケンジで突撃していった者たちに向かって無意識にだろう小声で「美学が無い・・・」と溢していた。
でもそのプレイヤーたちの攻撃がバフォルに効果を発揮していたのは驚いた。
俺はそもそもバフォルに攻撃しても防がれてしまうと考えていたから。
「ケンジ、これって・・・」
「駄目だよ魔王。魔王がやったら洒落にならないから・・・」
プレイヤーの攻撃にバフォルは耐えている。そして力の吸収を止めない。どうやらここでバフォルにダメージを与える事で出て来る悪魔王の強さを削れると見て良いのだろう。
ここでプレイヤーの一人が「黒い星」にも魔法攻撃を仕掛けたのだが、それは吸収されてしまったように見えた。
「争い潰し合うのがエネルギーになるって言ってたよな?じゃあ今プレイヤーがやってる事も結局はエネルギーになってるって事だよね。それを上回る攻撃をバフォルに当て続けない事には弱体化は狙えないって事じゃ無いの?」
俺の予想にケンジも「あー、そうかも」と納得してくれる。とは言え、プレイヤーには「光の力」があるはず。
使い熟せているプレイヤーが攻撃を仕掛けている中に居るかどうかは分からないが。
温存を図るつもりなのか、使える者が居ないのか?どちらなのかは知らないが「光の力」を発動するプレイヤーは居なかった。
そして次第に「黒い星」は小さくなっていき、全てがバフォルに吸収されたのだった。