何で俺だけ「世界は狭い」
このゲームの世界を改めて見てみようと思う。プレイヤーが先ず最初に現れるのは「始まりの都市」だ。
それはこの大陸中央にある。それを中心にして五芒星を描くように位置するのが四天王の拠点だ。その頂点に魔王の城がある。それで五芒星である。
今回マイちゃんの居た場所はと言うと、五芒星の一番上が魔王の城、その右隣だ。とは言え、始まりの都市からかなりの距離が離れているのである。魔王の城など「最果ての地」などと呼ばれる領域にあると言うのだ。
それを踏まえて四天王の拠点は配置されているのである。
そもそもかなりの広さがあるこの大陸。マイちゃんが支配していた領域はかなりの広さだ。そこにポップする敵はかなり強い。
しかしその敵を押しのけて「変態」たちはマイちゃんの居る拠点へと侵入を果たしたのである。
「かなり気合の入った奴らだな。とは言え、そいつらは許さないけどねぇ。」
俺はそう呟く。プレイヤーが攻めてきた。拠点が落とされた。それにどのような手を使われたとしても、その事実は変わらない。
今回はマイちゃんへと「精神的苦痛」を与える様な攻めをして、プレイヤーは拠点を落としたと言う事だ。
「まあ、そんなの今まで聞いた事無い、って言えば、聞いた事無いよなあ?」
普通はどのような「変態」であっても、敵を倒す、と言った手段を取るのが本来だろう、ゲームなのだから。けれども今回は特殊なケースと言えるか。
NPCがちゃんと独立した思考、そして、性格と言ったモノがあり、それらが全てしっかりと一つの「存在」としてこのゲームで「生きていた」。
だからマイちゃんはこの「変態」に耐えられずに逃げてきたのである。俺が魔王として「逃走」を指示していたからこうして事なきを得た、と言っても良い。
もし俺がこの戦略的撤退を命令としてマイちゃんに伝えていなければ、きっと彼女は精神を病んでいた事だろう。それは流石に俺も望まない。
「じゃあそう言う事で、ミャウちゃん、ちょっと出張お願いします。一週間くらいでいいよ。姿をプレイヤーに見せる必要は無いんだ。前に出張した時みたいに罠を張る感じで。それをちょっとだけハードにしてきて欲しいんだ。時間稼ぎかな。」
以前ミャウちゃんが助っ人に行った時にどのような手助けをしていたのかの報告は受けている。なのでそれをもうちょっとだけハードにして、プレイヤーへの妨害に徹してくれればいいと言っておく。
別段プレイヤーへとその姿は見せないでいいとも。
コレにミャウちゃんは「は!魔王様の御命令通りに」とだけ言って早速出掛けて行った。
「プレイヤーに重要アイテムをそう易々と渡せないもんなぁ。」
この魔王の城に入るには「キーアイテム」が必要だ。それらは四天王の守る拠点に隠されている。そこに居る四天王を倒してから捜索して初めて見つけられると言うギミックになっている。
これらは魔王のシステムのメニュー画面の「ヘルプ」を読んで分かった事だ。まあその隠し部屋もかなり見つけ辛いらしいのだが。それでもゲーマーと言う奴はこう言ったモノを徹底的に探すと言った習性がある。
それらを全て集めなければプレイヤーはこの魔王の城の結界を解除できない仕様だ。
今マイちゃんは曲がりなりにもプレイヤーからの「攻勢」に負けて斃される、とはならなかったが、撤退させられている。
なのでこの隠し部屋の発動条件が満たされているのだ。こうなるとここにまた後続の「変態」どもが来た時にこの事に気付かれるだろう。
そうしたらいとも容易く、とまでは行かないまでも、キーアイテムを奪われる可能性が高い。
なのでミャウちゃんを派遣して少しでもその奪われる時間を長引かせる目的で向かわせた。魔王としてはこうも簡単にキーアイテムを取られてしまう事になるのは情けない事だ。
なのでちょっとした抵抗である。まあミャウちゃんをマイちゃんの代わりに四天王に据えて代わりをやらせるのも選択肢の一つじゃないかと思うのだが。
それはミャウちゃんにやらせていた「迷惑狩り」の件が全てパアになるので、ここはそれをやらないでおくことに決めた。
さて、そうしてキーアイテムを全て集め、城の結界を解除して初めて中へと入り、そして魔王との対面となる。そこで最終決戦となるはずだが。
「俺が魔王にならなかったら多分それってもう達成されてるんだろうな。そうなるとそこで魔王はおそらくは討伐されてるだろうし、もしかしてメインストーリーはそもそも最初っからオマケ扱いだった運営?」
ストーリーを終わらせた後の「エンドコンテンツ」が本当は本命としていたのかもしれない運営は。
そうなると余計にこの「魔王」と言うジョブが不可解になる。その様な狙いを崩す事になる「魔王」などを、いくら天文学的な確立になるだろうランダムであっても入れたりするか?と言った疑問だ。
「まあ、考えても仕方が無いんだろうな。今はもう「なってしまった」からには俺もこの魔王を遊びつくそうと考えてるし。」
運営から俺へとコレに理不尽なメールを受けたりしたなら、これまでの経緯を全て世界中に晒すつもりでいる。
そうなれば運営会社は経営がかなりヤバくなる事だろう。俺としてもそれは避けたい所だ。




