閑話「防衛開始」
今回の事に集まったプレイヤーは約800人。その半数以上がここ最近になってこのゲームを始めたプレイヤー。
ソレを引いてそこからまたその半分近くの数は「中堅」で、しかも魔族の事も、魔王の事も「ナンボノモンジャイ!」と気勢を上げる恐れ知らずなプレイヤーだった。
残りのプレイヤーの参加の内訳はと言えば「お祭り好き」「取り敢えず参加」「怖いもの見たさ」「有名最前線攻略組が企画したイベントだから」と言った感じのライトユーザー勢が。
これらを引いた最後の残り四十二人、全体の一割にも満たない数が今回の「魔王国」に攻め入ろうと言う布告を出した古参プレイヤーたちだった。
「皆さん!作戦は頭の中に入っていますか!?キルされそうになったら即座に各自個人で判断して撤退をして構いません!その際には我々が渡した例のアイテムを使用してください!そうすれば生存率もかなり上がると思われます。では、準備は良いですか?出陣!」
今回の件の中心なのだろうプレイヤーが声を張って出発の合図を出す。
コレにぞろぞろとプレイヤーは動き出した。正に統制、統率の取れていない烏合の衆と言っても良い光景だったソレは。
もちろん魔族はこの時点で斥候を出している当然に。このプレイヤーの動きなど筒抜けであった。
やろうと思えばその斥候の奇襲で「半壊」と言えるくらいまでその数を減らせただろう。
しかし魔族側はそうした行動を取らなかった。あくまで「防衛」をすると決まっていたのだ。
ソレは「拠点防衛訓練」としてミャウエルが今回の事を周知していたからである。
そう、これはあくまでも「訓練」としてミャウエルは処理するつもりだった。
もちろん油断などそこに一切入っていない。ミャウエルは既にこの集まったプレイヤーの中に何人「光の力」を使えるプレイヤーが存在するのかを知っている。
そう、ミャウエルは自分の組織する「暗部」にこの攻略組の動きをかなり以前から見張らせていたからだ。
彼らの動きは既に全てバレているのだ。彼ら攻略組が隠し伏せて「バレていない」と思っている切り札などミャウエルにとってはフルオープン状態に過ぎないのである。
既に分かり切っているカードの柄、そして役。それに対して勝てる作戦を立てるだけなのだミャウエルにとっては。
その作戦は既に徹底して訓練を施されている防衛兵に。状況の変化にも臨機応変に対応できる様に会議も念入りに何度もやっている。
その作戦の根本にあるのはやはり「魔王」の意向である。「命大事に」「生きて逃げ延びるべし」「撤退は追い詰められる前に素早く、大胆に」と言った「先ずは死ぬな」が徹底されていた。
こうしてまたしてもプレイヤーにとっての悪夢が始まる。
今回の件に参加したプレイヤーたちは後に後悔をするのだ「素直に悪魔王編を遊んでいれば良かった」と。
しかしその「悪魔王編」も今や第十悪魔が残っているだけになってしまっている。
追加で「逆さ城」攻略にプレイヤーは行き詰っている状況だった。プレイヤーの誰もが「魔王編」と「悪魔王編」の二つのメインシナリオを進められていないと言う現状だった。
これには運営も頭を抱えていたのだが、上からの命令で魔王の行動には一切の「修正」を入れられないと言う事で発狂寸前にまでいっていた。
魔王はそもそもぶっ飛び行動が多く、運営はまさか魔王が「悪魔王編」を積極的に攻める何て考えていなかったのが原因である。
「悪魔王編」に魔王が、魔族が干渉できない仕様に最初から組んでいたらこの問題は起きなかった。今は上からその点においても「手出しするな」と命令が来ていてこれに運営は一度発狂した。奇声を上げるモノが続出したのである。
この「悪魔王編」導入において運営だって追い詰められていたのだ。導入前に何度も行ったシミュレーションでは「ゴーサイン」が出ていた。
なのに結果はこれだった。運営たちが自分たちの「勘」や「経験」や「読み」を疎かにしたツケであった。
これまでの「魔王」の行動を一度深呼吸して冷静に会議に掛けていればもしかしたら現状とはまた違った結果になっていたに違いない。
けど既にそんな話をしても意味は無い。既に「防衛訓練」は始まってしまったのである。
「ぎゃー!」「ひーっ!?」「ぶげら!」「びでぶっ!?」「誰か助け・・・うごのっ!」
「勝てなげらぼべっ!」「聞いて無いよー・・・でぶらっ!」「どう言う事だよこれはっ!?」
「一撃かまし・・・げどべっ!」「逃げるだ・・・けれぼっ!」「簡単なお仕ご・・・どべのっ!」
「って言ってたじゃながでべレっ!?」「貰ったアイテム使う暇も無・・・ってれぼッ!」
「これじゃ俺たちはイケニぇだべればっ!?」「むりげムリゲ無理ゲムリゲむりげぇぇぇぇ!」
誘導、囮、生贄、幾つか言い方があるかもしれないのだが、早速この「大森林前防壁」に群がった最近になってこのゲームを始めた新規プレイヤーたちは一気に殲滅されていく。
防衛隊の魔族が放つ攻撃は苛烈を極めていたから。攻撃は魔法だけでは無い。弓から一斉に放たれる矢の面飽和攻撃。投げ槍にナイフの投擲。魔族が振る剣から発生する衝撃波。プレイヤーを弱体化、混乱、幻惑するデバフアイテムなども烏合の衆に叩き込まれる。
これでもパワーレベリングとドワーフ装備でステータスは充分。そして強力な攻撃、防御スキルを発現させているプレイヤーたちだったのだが。
古参プレイヤー攻略組の新規プレイヤーたちへの今回の件の報酬はこの「パワーレベリングへの協力」と「ドワーフ装備の融資」であった。
これはどう考えても時間稼ぎの為の餌、数集めである。少しでもこの囮を長生きさせる為の。
しかしこれだけ集めた人数も見る見る内に「魔王国防軍」に磨り潰されていった。