何で俺だけ「バージョンアップは幾度となく」
それからは暫くの月日が経った。ミャウちゃんの迷惑狩りは活動を控えめにしている。と言うか、アレから狩り過ぎて迷惑行為をする者たちは少なくなっていた。
なのでたまに巡回と言う形を取ってミャウちゃんにはプレイヤーたちを監視させていたりするだけになっていた。
こうした間にも運営はどうやら細かいバージョンアップを何度も重ねていて今は「2.5」になっていた。
しかしこれ、俺に関係するモノは一切変わっていなかった。まあ仕方が無い。俺はこの「魔王」と言ったモノに不満が今の所無いからだ。
無いなら無いで運営に訴えのメールを出す意味は無いので静かなものだ。
プレイヤーたちはこのバージョンアップでより快適な遊びが充実してさぞ楽しい日々を送っている事だろう。
そんな彼らに俺は別段今は怒りを覚えない。魔王になってしまった当初は「なんでだ?」と言った消化できない、何処にもぶつけられない怒りを覚えていたが。
それでも今では時間が経ってこう考える。俺だけ別ゲーしてるんだ、と。コレである程度は抑えが効いたので、残りの怒りは運営に向けている。
「それでミャウちゃんさ、ちょっと聞いてくれない?俺さ、まだ四天王に一度も生で会った事無いんだよね。会った者にしかこの念話?通じないじゃん?だから一度は顔合わせしておきたんだよね。各自が一人一人俺へと会うためにさ、その間の拠点防衛をミャウちゃんに頼みたいんだよ。お願いできない?」
「は!畏まりました!このミャウエル、プレイヤーを一人残らず抹殺し、守り抜いてごらんに入れます!」
気合入りまくりはいつもの事だ。ミャウちゃんは俺が頼み事をするとこうして意気込みが凄い。
こうして一番最初はゲブガルに決定して早速ミャウちゃんには出張して貰う事になった。
ゲブガルの拠点が一番魔王城から遠いらしい。なのでそうした場所はさっさとやっておいた方が良いと言う事で、今こうして俺の目の前にはゲブガルが立っている。
「お目に掛かれて光栄に存じます。ゲブガルで御座います。こうしてお呼びいただき、この目で魔王様の偉大なるお姿を見られた事、一生の喜びとさせて頂きたく。」
「固い硬いよ!もっとこう気楽に向かい合って欲しいのね俺はさ。せっかくこうして顔合わせできたのに、もうちょっと軽い気持ちでいいよ?楽にして?別に無礼を働いたって俺は怒らないし、処分とか絶対にしないから、ね?」
俺のこの言葉に下げていた顔をバッ!と上げてゲブガルが俺を見る。
「ミャウエルから聞いていた通り、その器は海よりも広く深い。このゲブガル、魔王様にお仕えできる事に喜びで震えが止まりません。」
ミャウちゃんはゲブガルに何を吹き込んでいるんだろうか?そしてゲブガルは何を勘違いしてこれほどまでに打ち震えているのだろうか?コワい、もの凄くこの反応がコワい。
俺は次に四天王全員に伝えようとしていた事を口にするのだが、これに対しての反応がどの様に帰って来るのか怖ろしかった。
「で、四天王の皆に俺から直接伝えたい事があってこうして面接みたいな事になっちゃってるんだけどさ。急に呼び出すみたいな事になって御免ねぇ?」




