攻略!悪魔王編!「それは本当にできない事?」
帰る為の最終手段、いわゆる「デスルーラ」を使うにはまだ早い。
ワザと死亡してリスポーン地点に戻るという荒業は確かに便利だ。だけどもソレを気軽に使える立場に無い僕は。
それにこの昆虫の森を自由に歩き回る事は有意義でもある。
ここのフィールドは余りにも人気が無いので情報が全くと言って良い程広まっていない。
「だったら、手探りで此処を冒険するのは楽しそうだよな?」
前向きに物事を考える。しかしここで一瞬だけ見えた存在。この森の魔物、恐らくは徘徊系のボスだろうソイツの一部が視界に入ってその考えを取りやめる。
「何だよ今の悪寒は・・・あっちはまだこっちに気付いていなかったみたいだけど。気配を殺してバレない様にしないと、見つかったら一瞬で消されそう・・・」
ほんのちょっとしか見えなかったのに、その一部しか目に入っていなかったのに。
たったそれだけで僕の背中に氷柱が刺し込まれた様な感覚をもたらしたその存在に僕は瞬時に「生き残るには?」と言った考えに切り替わっている。
だがここで無暗矢鱈と歩き回っても此処からは出られなさそうだし、さっきの危ない奴に偶然遭遇してしまうルートに入ってしまうと僕は死に戻りを覚悟しなくちゃいけなくなりそうだ。
なので僕はここで敢えて危険に飛び込む。奴の後ろを付いて行くのだ。
「あれだけ強力な魔物なんだから、きっと僕の様なちっぽけな輩に注意は払わないだろう。前方にしかああいった奴は意識を向けないだろうから、慎重に真後ろを取ればきっと安全はある程度確定するはず・・・」
こうして一瞬で思い付いた理論に自信は無い。しかし「生存」と言う形を求めるならばかなり有効だと思ったのだ。
いや、この受けた悪寒にそう信じ込まねばやっていられない精神状態になってしまっていたと言うべきか。
そしてソレを即座に実行に移した。どうせ自分の居場所がこの森の何処なのかが既に分からない状態だったのだから、コレ以上に現状が悪化する事は無いだろう。
先程の奴が通った場所に直ぐに辿り着いた僕は緊張で荒くなっている呼吸を整えてから進む。
しっかりと慎重に、それこそ神経質に。奴に見つからない距離を保って歩く。時に立ち止まり、時に様子見の為に奴の気配を探る。
どう言った事かは分からないが「奴は向こうに居る」と分かると悪寒が走るのだ。その感覚に助けられてかれこれ30分近く歩き続けている。
集中し過ぎて周りが見えなくなり他の魔物の奇襲を受けると言った事が起きる可能性は高い。
なのでその点も考えて周囲にも視線を向けて歩いている。これは凄く僕の精神を削っていた。
(だけどもこれまで一切その他の魔物との遭遇が無い。きっとこいつを恐れて近づかないんだろうな)
特殊なテリトリーとなっていて他の魔物が入って来ないのかもしれない。その点に思考が向く。
なのでここでちょっと危険かもしれなかったが集中力を少しだけ落として肩の力を抜く。ずっとこの調子ではその内にヘマをして奴に見つかってしまうだろう。リラックスは大事だ。
(とは言え、ずっと後を付いて歩き続けてるけど。ここからの脱出ルートはまだ見つからないんだよなぁ)
何処にもヒントが無い。目印となる物も無い。
今はこの徘徊してる魔物の進行・徘徊ルート的なものを解明してそれから離れる道を探る事しか今の僕が「生存」する方法が無い。
このままずっとこの森の中に居続ける事はそのまま死を意味する。何とか安全な場所まで脱出してからログアウトしなければならない。
(こんな事になるくらいだったら素直に第十悪魔の方に行けば良かった。でも、今僕は・・・)
非常にドキドキしている。そんな状態なのに凄く楽しいとも感じている。
のっぴきならない状況に置かれて久しぶりに「冒険している!」と言った実感が。
コレによって僕はワクワクし始めた。ソレと同時に頭の中は冷静に計算を始める。
コイツを倒す事は今の僕には本当に不可能なのか?と。