攻略!悪魔王編!「誘い込まれて」
奴らは何処までも逃げる「スティール使い」を追い続ける。
時に他のプレイヤーの人込みを掻き分け。時にフィールドの魔物に邪魔されつつ。時にいきなり目の前に現れる「糸」のトラップを跳び越えて。
「絶対に全部取り返してやるからなぁァぁァぁァ!」
十五名ものプレイヤーが怒り、叫び、走り続けて一人を追いかけている光景は多くの者が目撃する。
その内にこの追いかけっこを横から撮影して動画投稿をし始める者も出た。
それだけ大規模で、そして広範囲、しかも長時間、この鬼ごっこは展開され続けているのである。
そしてとうとうゴールが見えて来た。そこは第十悪魔のダンジョン「逆さ城」だ。
「アイツ中に入って行ったぞ!?まさか悪魔王編のイベント関連だったのかよ!?」
もちろんそんな事は一切無い。けれどもそれを知らぬ者がソレを分かるはずも無い。
そんな滑稽な奴らの躍る様をずっと俺はこの追いかけっこの背後から観察し続けていた。
と言うか、最初から動画配信している。しかも生配信。かなりの人数がこの動画を視聴しているだろう。
何せこれをケンジにも知らせて宣伝しておいてくれと言ってあったからだ。
一応はこの配信、運営の許可も基本あって、個別個人でこうした動画に映った場合にプライバシーの関係でモザイクを掛けるか掛けないかを選択できるのだが。
こいつら十五人はきっとそこら辺の変更は一切していないだろう。そして初期設定はそもそも「モザイク無し」になっているのだ。恐らくは顔がバッチリ映っていると思われる。
運営も面白い動画が流れればそれが宣伝になってゲームの遊戯人口増加に繋がる事も狙っているのである。
なのでこの騒動を止める処置やらアカウント停止などの動きが見られない。「もっとやれ」状態である。
こうしてこのプレイヤーたちは「スティール使い」を追って「逆さ城」に侵入する。
俺が事前に他の魔族たちにこの件を知らせて城の中に張り巡らせておいた罠が満載だとも知らずに。
その罠を仕掛ける時間を稼ぐ為に「スティール使い」にはかなりあっちこっちを走り回って貰ってしまったが。
そのおかげで充分な数のブービートラップを仕掛ける事ができていた。
もちろん俺とミャウちゃん、他二名の「スティール使い」はこのプレイヤーの後を追って一緒に「逆さ城」に入っている。当然撮影もし続けている。
「バレないものだな。隠蔽の魔法をミャウちゃんに掛けて貰っているとは言えだ。こんなにバレないものなのか?」
怒りで目の前しか見えない、そんな事なんだろうとこの場は納得して罠にかかりまくるプレイヤーたちの撮影に集中する。
そう、こちらの思惑通りにプレイヤーたちが次々に罠に嵌ってくれているのだ。
その面白さに思わず吹き出しそうになるのを抑え込みつつ動画撮影、生配信を続ける俺。
「しかし、これはかなりの絶妙な罠の張り具合だね。・・・ぶふッ!見ているだけなら面白過ぎるよ。」
思わず吹き出してしまった笑いはプレイヤーに届いていない。何せそれ所では無いから。
叫び声がギャーギャーと響いて俺の声など聞こえちゃいないのである。罠に嵌った方は堪ったモノではない。
「最低の性格してるなぁ、俺って。でも、良いよね?今の俺は「魔王」なんだから。」
魔王と言うジョブを免罪符にして、まるで「ピタゴラ◯イッチ」の様に罠に嵌り続けるプレイヤーを俺は見つつ笑うのだった。