攻略!悪魔王編!「心を同じくする者」
「で、その後に直ぐ向こうに行ったと。それでこの結果?」
「うん、そうなんだよねぇ。ちょっと興が乗り過ぎてやり過ぎちゃった感がどうもね・・・?」
僕は後から話を聞いたのだが、本当にこの魔王の被害に遭ったプレイヤーたちには同情をする。
馬に名前を付けた、パワーアップしちゃった、これはまだ良い。いや、良く無い。
運営は「魔王」にどれだけ裏設定を詰め込んでいると言うのか?これは余りにもやり過ぎだと思うのだ。
魔王が服従させた魔物に名とその魔力を与えると進化する。運営は何処までこの魔王を贔屓にする気なのか?
とは言え、そこは魔王本人もそんな事を分からなかった、知らなかった事なのだからしょうがないとは言えだ。
「いきなりそのまま慣らしも含めてドワーフ都市の前まで行くのは、まだ分かる。だけどさ?二千人近いプレイヤーが居たはずなのに、なんで数が百ちょっとくらい迄しか残らない程まで蹂躙しちゃうのよ?」
「いや、これには面目次第も無い訳で。ぶっちゃけ、楽しくなっちゃったんだよね。」
魔王が言い訳にもならない言葉を吐きだした。これを僕は黙って聞くだけである。僕はその現場を見てはいないから直接には。
だけども映像は見た。インターネットに流れている配信で。その光景は地獄だ。
先ず一直線に切り裂かれたプレイヤーの群れ。そしてコレに切り返しで魔王率いる騎馬軍団が速攻でまたプレイヤーの中に突撃していく。
その時は最初の一度目よりも悲惨だ。何せ今度は被害が一直線だけじゃない。その周囲にも広がっていたのだから。
話に聞けばこれは魔族たち各々に得意な攻撃をさせながらの事であるという。
コレに因ってより一層にプレイヤーたちの数が一気に減った。
だけどもコレにプレイヤーたちも即座に「ヤバイ」と判断して堅固になろうと塊り始めたのだ。一致団結。
プレイヤーの群れを二度も引き裂いた魔王騎馬軍が三度目に突撃をまたしてくるだろうと予想して「盾持ち」「ディフェンダー」「タンク」などと言われる所謂「防御役」を前面に出して弾き返す動きを即座にして見せた。
しかしここで魔王は突撃させない。いや、すると見せかけた。
「いやー、素直に盾に突っ込んでも面白くないでしょ?あっちの数の方が圧倒的に多くて、だけどもこっちは二十一騎だけなのよ?あ、ミャウちゃんは参加せずに見守ってくれていただけだから数に入れて無いからね?」
突撃すると見せかけてその盾の前にて急停止、その後に一斉に魔族たちは魔法を放って即座に離脱。
これでその盾役のプレイヤーに大惨事、大きな大きな被害が出る。この魔法攻撃でまたしても光と変わる多くのプレイヤー達。
この生き残りの中に思考が早くて柔軟な者が居たりしたんだろう。
守っているだけではこのまま削り殺されるだけ、そう判断したのかプレイヤー側も魔法を放って魔王の騎馬軍に攻撃を仕掛けたのだが。
「こんな風よりも速度が出る馬とかにそんなモノが当たるはず無いんだよなぁ。」
僕はそうぼやいてしまった。それ以上に言える事が無かったから。この魔馬たちのパワーアップは異常だ。その走る速度が。
「いやー、最初は俺も焦ったんだけど。これに慣れて来ると馬の操縦も簡単にできる様になってさー。」
当たり前だ。声を掛ければ魔馬がソレを理解して動いてくれるのだ。当然手綱を引いて馬を操るというテクニックが必要無いのだから普通よりも圧倒的に簡単で楽だろう。
それこそ、そんな異常で普通じゃない速度で走る存在を一言二言で操作できる様になれ無ければこんな事にはなっていない。
さて、プレイヤー側から放たれた魔法などは横に素早く走り出した騎馬軍に当たるはずも無い。
そして走り出した騎馬軍は塊となっているプレイヤーの外縁を回りつつ攻撃を仕掛けてどんどんとプレイヤーの数を削って行った。魔法攻撃を仕掛けて。
これにはプレイヤー側の攻撃は当たらず、魔族側の攻撃は当たる。圧倒的である。
ここで円の形になって追い詰められたプレイヤーたちはまたしても防御を固めようと行動する。
この動きに魔王がまた妙な事を考えてそこに突撃をしたのだ。二方向から。
そう、二手に分かれて前と後ろ、プレイヤーの中で交錯する様にそのまま突撃させたのだ。
その動きを即座に予想したプレイヤーが叫んだ。何としても圧し止めろ、と。
まだこの時残っていた盾役がその突撃を防ぐために飛び出す。また急停止しての魔法攻撃を警戒して。
でも、止められなかった。騎馬軍はそんな前に出て来た盾持ちプレイヤーの遥か頭上高くを跳び上がってソレを軽々と超えてしまったから。
これでまた真っ二つに切り裂かれたプレイヤーの群れ。だけどソレで終わりじゃなかった。
即座に次の行動に移り始めた騎馬軍はその切り裂いた一直線に十字を切る軌道でまた二手での突撃。
上から見れば「丸に十の字」にされてしまうプレイヤーの群れ。もうこの時には残りが三百程にまで減らされていた。
その後も容赦無く魔族側の攻撃が続いて最終的には百ちょっとにまでプレイヤーは減らされてそこで戦闘が終了になったのだ。魔王側に被害は全く無い完全勝利と言える状態だ。
たったの二十一騎で二千に近いプレイヤーが全滅に近い壊滅。幾らここがゲームの中とは言え、ちょっと酷い。いや、もの凄く酷い。有り得ない位、酷い。
「酷いしか言えないよね、この結果は。だって、生き残ったプレイヤー達が全員泣いて助かった事を喜び合ってるんだよ?反省して?魔王?」
そう、生き残った者たちは洩れなくこの場に居る事を後悔し、そしてこの地獄を運良く生き残れた事を心の底から喜び合っていたのだ。誰もが側にいた心を同じくする者たちと抱き合って。
「やり過ぎたと思っている。でも、反省はしない。今後も俺はこの世界を楽しんでいく事をここに宣言する。」
「うおォい!ちょっとくらいは配慮してあげようねぇ!?」
「いや、だからちゃんと生き残ったプレイヤー達には全員に充分に行き渡るくらいの報酬はその場で渡して引き上げたからね?」
魔王が報酬としてプレイヤーたちの所に置いて行った物は魔王国で作られた様々な品々。
武具、魔法薬、アクセサリーに装飾具などなど。ありとあらゆるアイテムが山もりで。
それらをプレイヤーたちが大人しく、そして仲良く、互いに争ったり奪い合おうとせずに、時に譲り合いながら分け合っている所で動画は終了している。
「本当に、何やってんだよ、魔王は・・・」
しかしこのおかげで暫くは数字付き悪魔の事が話題から一気に無くなったので、魔王が狙った通りの結果になった事でこれ以上の事を僕は言えないのだった。