攻略!悪魔王編!「名前を付けましょ馬たちに」
俺は会議の後に急遽、馬タイプの魔物の捕獲を指示した。数は二十。
もちろんそれは思い付きで提案した騎馬軍を急造する為である。
これを使って今もプレイヤー間で話題となっているドワーフ都市に攻めるフリをして注目を集めるのだ。
「で、あれから二時間と掛からずに集まったのは凄いよね。で、黒皇を既にもうリーダーとして認識して一団になってる馬たち賢い。」
捕獲されて連れてこられた魔馬たちは既に黒皇を一目見て大人しくなっていた。
捕獲されて来た魔物だし、この場で暴れ馬になって一悶着起こるのでは?と思ってここは馬には馬で対抗と考えて俺はこの場に黒皇を連れてきていた。
馬の事は馬が一番理解できるだろう、そう思って黒皇が大人しくさせてくれないかな?説得してくれないかな?と馬鹿な考えの元に連れて来ていたのだが。
馬タイプ魔物はどうやら積まれているAIが最初から高いのか、どうなのか?
ここまで連れて来られている間ずっと自分たちを捕まえた魔族たちを魔馬たちは振りほどこうとしていたのだが。
「どうやら魔王様の威光を知らしめる前に黒皇の佇まいに平服したようですね。」
ミャウちゃんはそう言って一頭の馬の顔を優しく撫でる。しかし。
「ですが、魔王様に心服するべきです。この馬たちを統べるのはあくまでも魔王様。黒皇ではありません。」
厳しい言葉と共にミャウちゃんから紫色の魔力が立ち込める。
どうやら俺よりも先に黒皇を見て大人しくなった馬たちにミャウちゃんはイラついているらしい。
これは仕方が無い。俺はずっと以前から既に自分から漏れていると言う魔力を抑え込む事ができる様になっている。
そして今もソレは抑え込んでいた。なのでここで馬たちが黒皇を見て先に大人しくなったのは別にしょうがない事だ。
俺でも時々黒皇のその堂々たる佇まいに感心しているのだから。
「ミャウちゃん、抑えて抑えて。俺の事情は知ってるでしょ?それに、ミャウちゃんが魔力を出すと、ホラ?他の魔族たちが怯えているから、ね?ソレと馬も怯えちゃってるし?ここは穏便に、ね?」
俺の言葉で無ければ今のミャウちゃんは止められない。なので優しく俺はミャウちゃんに声を掛けた。
コレにミャウちゃんが「申し訳ありません」と言って噴出させていた魔力をスッと止める。
もうこれだけで馬たちは二十頭全部が小刻みに震えている。震えていないのは黒皇位だ。
恐らくはコレで馬たちはミャウちゃんに逆らえなくなった事だろう。怒らせてはいけない相手と認識したはずだ。
「さて、じゃあこいつ等にも名前を付けてあげようか。その名前で、君たちがこいつらの世話をしてやってくれ。プレイヤーたちとやり合う時も君たちに同行して貰うとしよう。捕まえて来たのは君たちだしね。」
一人一頭を魔族たちは捕獲してきている。なので彼らにその馬を与えると言う宣言をここで俺はした。
「あ、ミャウちゃんも自分でコレ!と思う馬が居たら捕まえてきて自分の愛馬にしても良いからね?遠慮はしないで良いよ。」
「有難うございます魔王様。その内にいつか見つけられればその時は。」
ここでミャウちゃんは今直ぐに捕まえて来るとは言わなかった。
ミャウちゃんの移動速度は別に遅い訳じゃ無い。馬に乗らずとも別に困る事は無いのである。
これは俺の思い付き、我儘みたいなモノなのだ。ミャウちゃんが無理に付き合う事も無い。
ここに居る魔族たちも魔物であるこうした馬たちを逃がす事無く捕獲できるスピードを簡単に出せるだけの実力者だ。
そなると、これは俺の我儘に付き合ってくれていると言っても良いだろう。
俺はそう判断してから魔力を一部開放した。馬たちを俺の支配下に置く為だ。
ソレは一瞬で終わった。先程のミャウちゃんの恐怖に震えていた馬たちがピタッと止まる。
そしてその目は全て俺に向けられていた。どうやら俺がこの中で一番強いのだと認識してくれたらしい。
そこからは俺は一頭ずつ馬たちに名前を付けて行った。何となくだが競馬の事をこの時に俺は頭の中に浮かばせていた。
競走馬と言うのはオーナーが名付けを出来るらしく、時々妙におかしな名前の競走馬が居たりして面白かったりするのだ。
「名前を付けて可愛がった方が愛着がわくし、世話も自然とし易くなるよね。」
別に俺は分かり難い名前を付けるつもりは無かった。この馬を世話する魔族たちがこの馬たちの見分けがつく様に、分かり易い様にと思っての事だ。別に深い意味は無かった。
ワンザー、ツウリー、サンザ、フォウス、ファイズ。
ロック、ナナイ、ハッス、ナインス、ジュウド。
イレブン、ジュニス、サーティス、フォティ、ジュウゴ。
ジュロク、セブンティス、ジュハット、ジュクウ、トゥエル。
きっとこの名付け以後に俺がこの各自の馬の名前を口にする事は無いと思う。この名は馬たちの世話をする魔族たちが今後頻繁に使う事になる。
だから、付けた名前で俺が馬たちを呼ぶ機会が今後無い代わりに、少しだけ俺の魔力を分け与えるつもりで掌に魔力を集めて各馬を撫でてやる。
今この場では傍から見ると俺が支配した馬たちを部下に下賜するという場面なのだろう。
で、そこで俺がやった「魔力を込めて撫でる」がどうやら思いがけない効果になるらしく。
「おおう・・・馬が光ってる・・・何で?」
どうやら馬がこれでパワーアップしたらしいのだ。
俺が魔族たちに馬を下賜しただけじゃ無く、こうしてパワーアップまでして引き渡したと言う形になる。
どうにもコレは魔族たちからしてみれば破格過ぎる事であるらしく。
何だか馬を受け取る魔族の誰も彼もが黙ってコレに膝をついて神妙な面持ちで頭を垂れて何だか妙な空気になってしまっていた。