何で俺だけ「その少女は」
その少女は部屋の中央、ポツンと椅子に座っていた。横向きでいるので正面の顔はどう言ったモノであるかは窺えない。
「おい、警戒しろ。もしかしたらモンスターかもしれない。最初に魔法を撃ち込んで様子見だ。」
剣士が全員を警戒態勢に入らせる一言を口にする。武器を全員が手に持って構えるのだが、少女は一向に動かない。
「なあ?もしかしてフロアギミックの類かもしれないな?となるとあれってもうちょっと近づかないと駄目じゃね?」
動かない少女に武闘家がそう言って無造作にその部屋の中央へと歩を進めようとした。しかし。
「ねえ、そこに、居るのは、誰?私を助けに来てくれたの・・・?」
凄く可愛げな声が悲痛そうにそう言い放った。その少女へと近づこうとしていた武闘家はそれに反応して直ぐに歩を止める。
「あ!窓の人影ってコイツ!赤い服着てるし絶対そうだ!」
魔法使いが自分が見たのはこの少女だったと声をあげる。ここで聖者が魔法を放つための準備を終えた。
しかし一向にそれを放たない。準備状態を維持しながらリーダーである剣士にこう聞いた。
「なあ?もしかしてコイツってこのダンジョンを攻略する鍵なんじゃないのか?だってあの絵画、この少女が書いてあったんじゃね?」
コレに斥候は面倒臭そうに言い返した。
「とりあえず攻撃して見れば分かる事だろ。攻略しに来たわけじゃねーし、楽しもうぜ。戦闘開始しちおまう。」
軽い感じでそう口にする斥候に重戦士は同意した。
「先ずはやってみない事にはな。とりあえずこいつを囲って袋叩きにして見りゃ分かるだろ?」
全員は今固まっている状態だった。部屋に入ったばかりで少女を見つけたので入り口に固まったままだった。
しかし彼らが動こうとしたのを察知したのか、一瞬にして「ぱっ」と少女の姿が消える。
だが、直ぐに出てきた。彼らの目の前に。突然。消えた時と同じに「ぱっ」と。彼らの意識の隙間へと入り込むように。
しかもそのグロテスクとしか言えない顔をドアップにして。
「ぎゃあああああ!」「ひっ!?」「ひょおおおおお!?」「おええええええ!」「うっぷ!?」「うおおおお!?」
コレに仰天したプレイヤーたちはその恐怖に全身の毛を逆立てて叫びをあげる。だが。
「イヤアアアアアアアアアアアアアアアア!助けて!助けてえええええええ!」
そんな叫びを掻き消す大音量で少女が叫んだ。目には眼球が無く、黒い眼窩。血の涙がこぼれ落ちる。
顔の皮膚は何処にも無く筋肉が剥き出したまま。血がドロドロとあちこちから噴き出ており、可憐で形の良かったのであろう鼻と唇は崩れ溶けていて、見れば怖気が止まらなくなる。
そんな存在が彼らに襲い掛かるのだ。ホラー慣れしていなかった彼らにはキツイ。いや、これは覚悟が足らなかった彼らには、と言い換える方が正しいかもしれない。
このダンジョンがどんな「仕掛け」を持ってプレイヤーたちを待ち受けていたのかを読み間違えたこの彼らは少女のその叫びの後、この部屋を一目散に逃げ出した。




