閑話「プレイヤーたちの間で話題沸騰中」
掲示板ではとある事案が話題を呼んでいた。
「魔族とプレイヤーが一緒に行動していた」
そんな内容が流れるとソレは一体どういう事だと言った感じで瞬時にプレイヤーの間に広まっていた。
「その後はあっと言う間に俺たちブッコロされちゃったけどな。」
「ああ、あれは無理ゲーですわ。アレに勝てるビジョン浮かばねーもん。」
「なあ?お前らが遭遇したって言うのは紫色したミノタウロスだって言うけどさ?そんなの今まで一度も見た事無いぜ?嘘なんじゃないのか?」
これはケンジ、マルス、マイウエルと遭遇したプレイヤーたちと、そのパーティとは別の所属のプレイヤーとの会話である。
掲示板の方ではこの情報が流れた瞬間にお祭り騒ぎとなってプチ炎上。そのプレイヤーは一体誰なのか?とか、その時に居た魔族はどんな特徴を持っていたのか?とか。その他に同じ目撃情報が無いかどうかも大きな話題となっていた。
そしてそんなプレイヤーが本当に居たのならば、どうやって魔族とそんな仲になれたのかを知りたい者が捜索を開始する程。
「おいおい、嘘じゃねーよ。こんな事を嘘ついても何にも得になりゃしねえ。」
「でも、そうなるとおかしいじゃん?だって魔族ってさ、プレイヤー見たら見敵必殺デストロイだぞ?一時どうやら妙なイベントが絡んでレア素材くれたりした事があるとか言うのは皆知ってる事だけど。」
証拠は無い、しかしこの件に嘘を言うはずが無い、だってその当事者だから。その様に説明するプレイヤーと。
しかしそれを有り得ないんじゃ無いかと言って一部例を出して疑うプレイヤーとの会話は続く。
「どうにもその時の魔族は一緒に居たプレイヤーと親しい感じな空気だったんだぞ?俺も仲間も後々で冷静に話し合ったけど、皆同じ結論になってる。」
「じゃあ俺たちも同様に魔族と仲良しこよしになれる可能性があるって?それおかしくない?だってそんな事できるとか言ったら基本シナリオと真逆じゃん?」
プレイヤーは魔王を倒す為にこの世界に召喚された神の使徒。目標は魔王の討伐。魔王を崇める魔族の殲滅。
なのに仲良くなってしまうとそれは真っ逆さま。プレイヤーの存在としての根底が崩れてしまう。
「いや、別に有り得ない事も無く無いか?だって未だに「魔王編」なんて誰かシナリオ進められた奴いないだろ?その可能性だって残ってるんじゃね?」
話が最初のお題から少しづつ逸れて行っているがプレイヤーたちはそれを気にせず話を続ける。
「何かしらのフラグを起てるとそっちのルートに入るって?信じられねーな。そんな生温い相手じゃ無いぞ?魔族とお前ら戦った事あるだろ?俺たちに向けられた敵意とか、殺意?あれがどうにかなると思ってる?それこそ有り得ねー話だわ。」
「それよりもさ、今第六悪魔のダンジョンにプレイヤーがわんさか居るのって、あれ馬鹿なんじゃねーの?魔王を一目見たさに目撃情報の場所に行ってるんだろ?暇すぎる野次馬ばっかりで呆れるんだが?」
こうしていきなり別の話をぶっこんだプレイヤーのせいで一気に話題が変わる。
「そのプレイヤーの中に魔王が城から出て野良になった事を喜ぶ奴らが一部居るのが頭おかしいわ。」
「あー、それな。魔王城に攻め入るよりも単独でフラフラ歩き回ってる魔王に挑んだ方が勝てる確率高いとか考えてる馬鹿どもな。ちょっと考えれば分かるもんだろうにな。」
「イベントか何かだったらもう第六悪魔のダンジョンに魔王は現れないだろうし。それこそ、魔王自体の強さがどれ位なのかを全く分かっていないと言うね。本気で魔王に反撃されたら一秒も耐えられないだろ。しかも目撃情報には魔族が一人とデカイ狼が一匹付いてるって事だっただろ?無謀にも程があるって。第六悪魔の時の魔王の映像とか見たらマジで勝てる気しないから。」
「は?何それ?狼?そんな情報聞いて無いんですけど?」
「あ、それ知ってる。確か有名な「動物園」だろ?そこに魔王が現れてその園の中で一番強い、というか、次元が違う魔物をテイムして買い取って行ったとか何とか?」
「・・・今掲示板に最新情報が出てる。その狼やべえぞ?この報告が本当だったら。というか、多分マジだコレ。」
彼らは各自がゲーム内掲示板を開いてソレを読み始める。そして全員がまたしても「無理ゲー」などと口にし出す。
「んだコレ・・・ケルベロスって、しかも動物園の園長って言ったらヤバイ強さの人でしょ?有名じゃん?」
「そのケルベロス一匹に対して六人パーティが「アッと言う間劇場」で全滅とか・・・ナニソレ?そんなのアリなの?」
「そいつらの証言が全員揃えた様に同じ言葉で「何をされたか分からない」とか言ってるのって、冗談じゃ無いの?え?マジ?」
鬼に金棒、魔王にケルベロス。増々「魔王編」の攻略が無理ゲー。
彼らだけがそう思った訳では無い。この情報を知ったプレイヤーの全てがそう思う他無かった。
「なぁ?魔王編って、運営どうしたいんだろうな?これじゃそもそもこのゲームがどうなってんだ?って話になるじゃん?クリアさせる気あるの?ここの運営?」
「でも、どうやら新規参入者が未だに増えてるって話が止まらないじゃん?それでプレイ人口が化物級のゲームになってるから、その中から「魔王編」をクリアできる奴が一人くらいは出るんじゃないの?」
この意見に誰も口を開かない。誰もが「うん、無理だろ」と思っていたから。
「あ、俺もうそろそろ集合時間だわ。んじゃまたな。」
「行ってら。んじゃ俺たちも行くかぁ・・・もう無謀な事をしようとするの、止めようか。」
こうしてプレイヤーたちは話を切り上げて自分たちの日常に戻っていく。
魔王と、ケンジと言う「無職」のジョブを持つプレイヤーが着実に「悪魔王編」を攻略していっている事を未だに知らないままに。