何で俺だけ「派手に散る」
このボスの間にもトラップが。ミャウエルの仕掛ける「糸」の罠。それらがプレイヤーたちを絡め取る。
「な!なんだ!くっそ!ボスと対決するのにもコレに対処しながらかよ!」
リーダーのプレイヤーがそう言って剣を振り回して無理矢理に糸を切っていく。
しかしコレは攻撃の手を一手も二手も後手に回る事になる訳だ。その間にマイウエルの魔法詠唱は終わる。
そもそもマイウエルは魔法詠唱などをしなくとも無詠唱で魔法が放てる。まあそうなるとある程度の威力が落ちると言った仕様となっているのだが、それもマイウエルなら「威力低減」のデメリットは克服しているので詠唱は本来なら必要無い。
なら何故ここで詠唱をしたのかと言うと、最初の一撃で彼らプレイヤーを屠る事ができなかったので「威力上昇」のためにここはあえて詠唱を行ったのだ。
「我が前に白き怒りの稲妻を。目の前に現れた愚かなる者に鉄槌を。」
言い終わった時にはプレイヤーたちは真っ白な世界に居た。もちろんその瞬間に「蒸発」している。
それだけの魔法攻撃をマイウエルが放っているからだ。それはこのボスの間を真っ白に染め上げるほどのエネルギーの塊。雷の柱。
天井から視認すらできないその速度でプレイヤーたちに音も無く降り注ぎ、そして瞬時に消滅させるほどの威力。
「お姉ちゃんありがとう。助かったの。」
静かになった広間にてそう小さい感謝の言葉が響く。それに返事がされる。
「あたりまえでしょう?魔王様から貴女の助っ人をしろと命令がされているのだから。そうでなくとも私の可愛い妹に奴らの汚い指一本すら触れさせる気は無いもの。」
何処からともなく姿を現したミャウエル。その言葉にマイウエルがうーん、と唸る。
「ねえ、私は四天王なんかやりたくないんだけど。降りちゃダメなの?他にもっと攻撃魔法に特化した人居るでしょ?お姉ちゃんから魔王様に申し出てくれないの?私向いてないよぅ・・・」
この悲しそうな声でそう訴えるマイウエルに返って来る言葉はと言うと。
「貴女は魔王様に仕えると言う名誉な事を放り出すと言うの?聞き捨てならないわよ?いくら妹でも。貴女のその魔力量に匹敵する奴はそうは居ないのよ?それを魔王様の御役に立つように使う事こそ誉だと思いなさい。」
「ううぅ・・・魔王様の事は確かに敬っては居るけど、それでも私は争うの苦手だよう。一度でいいからお姉ちゃん私の訴えを魔王様に伝えて欲しいよ?」
コレにギロリとマイウエルを睨むミャウエル。別にこの姉妹の仲が悪いと言う訳では無い。むしろ姉妹仲は人一倍、いや、二倍は良いと言える。姉は妹を溺愛し、妹は姉を尊敬している。
しかし事「魔王」の事になると姉は厳しさを増すのだ。それを覚悟の上で妹はそう訴えた。
「大事な妹のためだから、一度だけその願いは叶えて上げる。こうして魔王様の配下となって出世して欲しいと願って半ば私も貴女の性格を知っているのに無理やりこうして四天王に入れてしまったしね。・・・だけど、これだけは肝に銘じておきなさい。魔王様を裏切るようなマネをして見なさい?その時には私が直接貴女のその命を刈り取りに行くから。」
最後の一言にマイウエルは「ひぇ!」と腰をぴんと一瞬にして伸ばす。さっきまでおどおどとして腰を曲げていたのにだ。
コレは姉が最後に口にした言葉に本気の「殺気」が含まれていたからだ。
マイウエルはコレに「勘弁して欲しい」と心の底から思う。魔王に反逆すると言った意思は一ミクロンも持っていない。しかしこの魔王の事となると過激になる姉は、自分が少しでも魔王に逆らったりしようとするならすぐにでも飛んできて「お仕置き」をしてくると分かっている。
「ま、魔王様に逆らうなんてしないしない!で、でも、降りたいって言うのはお姉ちゃん、ちゃんと伝えておいてね。これ一度きりだから。駄目だったらもうそんな事言わないでおくから。」
このマイウエルの願いは虚しい。この直ぐ後に充分に溜まったポイントがマイウエルへと最終強化まで投入されてしまったからだ。
ここまでされていて四天王を降りると言った事はできやしない。マイウエルが自分の力が急速、急激にあり得ない程に上がった事を自覚した時に「オワタ」と思ったのは仕方が無い事である。
ミャウエルも妹がパワーアップした事を直ぐに理解して「さっきの話は無かったことにするわね」と一言。その後はすぐにミャウエルは魔王の元に帰ってしまった。
その事に余計にマイウエルが落ち込んだのは想像に難くない。




