何で僕だけ「ハイパー・メガ・爆弾」
僕は何て言ったら良いのか分からないから黙るしかない。メイド三名は頭を下げて「お帰りなさいませ」と、マルスは「魔王様ご機嫌だべな」などと笑っている。
「君って良く四つ揃えられたよね鍵。しかもちゃんとソレを使ってくれるんだからもう恩人だよ、恩人!バイゲルに渡した分は絶対に無理だろうな、って思ってた所でこれだからね!いや!もう!奇跡って信じる?」
魔王は僕へとそんな言葉を投げかけてくる。しかし答えようが無い。何せ僕は魔王の事情など全く知らないのだから。
最初から説明して欲しくてもそんな雰囲気でも無い。そして目の前の全プレイヤーの敵、最終目標である「魔王」から全く敵意や殺意や憎悪やら、マイナスな感情が一切感じられない。
目の前に居るのは「魔王」を倒そうとしている「プレイヤー」なのに。
「さて、何から話そうか?俺は今後の事を話したいんだけど。君は?」
僕はこの魔王の求めに「は?」としか言えなかった。何を言い出したのかと。
いや、そもそも魔王がプレイヤーへと何を話す内容がある?と言った感じだ。敵同士だから戦うのが当然だろうに。
いや、今の場合は戦闘となれば僕があっさりと魔王に一撃で消滅させられる展開しか無いが。
混乱して何を言って良いのやら分からずにずっと黙り続ける僕。その間に魔王は玉座へと腰を掛けた。
そして流石に魔王だ。脚を組み、肘掛けに腕を預けて僕を見下ろす様は迫力満点で。
「そう言えばお互いに自己紹介がまだだったか。俺は魔王をやらせて貰っている。ぶっちゃけ、プレイヤーだ。」
超巨大な破壊力の爆弾が投下された。僕の思考がコレに大爆発して機能しなくなる。
「さっき城に入る前にシステムを確認して見たらさ、解禁されてたんだよね。お知らせが来てたんだよ。封印を解いてくれたその瞬間みたい、解放されたの。混乱してるみたいだし、ここでハッキリともう一度言わせて貰う。俺はプレイヤーだ。」
追加で完全焼夷弾を打ち込まれた気分だ。思考は真っ白になって何も耳に入って来ない。精神が危険領域に入った様に感じる。
ここで「このまま強制ログアウトの目に遭うのでは僕は?」と思考があらぬ方向に飛んで行っていた。
「さて、この場にいる四人、この事実はお前たちどう判断する?俺は魔王として魔族を率いてプレイヤーを滅するはずだった。しかし、この「魔王」の中身は何がどうなって手違いが起きたのか、中身は「プレイヤー」なんだ。俺がここに初めて現れた時からな。」
僕が真っ白になって魂が口から抜けている間に魔王がそんな事をメイド三名とマルスに問う。
魔王が僕から部下の方へと話を振ったのでふと僕はこの時に少しだけ冷静を取り戻せた。
自分の問題から、客観的に見る他人の問題にシフトしたおかげだ。コレを現実逃避と呼ぶ。
メイドたちは動かない。しかしその顔には多大な困惑が浮かんでいる。必死にソレを抑え込んで無表情を保とうとしているが、どうやら無理である様だ。
けど僕は思う、このメイドたち、良く訓練されてるな、と。これだけの超巨大爆弾を投下されてもこの程度のリアクションなのだから。
この魔王の爆弾発言を、破壊力が半端無いのに驚きの声すら上げずに感情の爆発を抑え込んでいる。きっと何か言いたい、叫びたいのだろうと思うが、これまで受けて来た教育がソレを抑え込んでいるんだろう。
マルスの方はと言うと、こちらは何とも言えない。「も~?」と悩みの声?を上げながらマルスは首を傾げて何かを考えている様なのだ。
表情からは何を考えているのか全く中身を読み取れない。ある意味この中で一番度胸があるのはこのマルスでは無いだろうか?
僕は僕で未だに何ら状況が呑み込めなくてどうしようも無くなっている。動けない。そう、動けないのだ。
体を動かす為の神経すら止まってしまったかの如くに全身に力が入らない。別に特殊イベントへと突入の演出に入ったとか言った事でも無ければ、魔法で金縛り系を受けた訳でも無い。
真っ白になって何も受け付けない思考が自分の身体を動かす事すら放棄してしまっているのだ。それだけのショックを受けていると言う事である。
「あー、全員固まっちゃったか。ちょっと反省しないとな。ミャウちゃんとかに伝える前にこのリアクション見れて良かったわ。どうすっかなー?ちゃんとこれは全部伝える気でいるんだけど、住民たち全員に。」
そうやってボヤく魔王を僕はまだ復帰しない思考でぼーっと見るしかできなかった。