何で僕だけ「圧迫」
違和感などと言う言葉では表現しきれない。と言うか、今自分が置かれている状況が全く理解できない。
だって僕はプレイヤーで、なのに魔王の城の、そのまた玉座の間で、テーブルと椅子を用意されてお茶が出て、しかも茶菓子まで出されて歓待をされているんだから。
この場所には三名のお付きのメイドが居た。それも魔族のだ。マルスも一緒にこの場に居るのだが、マルスはマルスで寛いでいる。床に直に座って。
「オラに合った椅子は作るのが大変だべ。だから楽な姿勢を取って良いと言われたらこうしてるんだべ。魔王様からも許可を貰っているだべな。気にしないで良いべ。」
そう言う事じゃ無いのだ。そう言う事では。しかもマルスも一緒にお茶と菓子を頂いている。どう言う事だよと突っ込みたいのだが、今の僕にはこの場にマルスが居てくれる事が非常に心の支えになっている。
幾らこの場付きの三名がメイドとは言え、敵意を僕へと向けて来ていないとは言え、相手は魔族だ。
しかもメイドの一人一人が既に僕なんかよりも遥かに強いだろう事を僕は肌で感じている。
そこにマルスが居てくれるだけで緊張感が変わる。呑気な喋り方でおっとりした性格、気性も穏やからしいのでこの場の空気感を和らげてくれている。
僕とメイドだけだったら会話もきっと無い。圧迫感が凄かっただろう。一方的に僕がそう感じるだけだろうが。
いや、空間的にこの玉座の間は広いが、それでもマルスが居るとその巨体で物理的な圧迫感は凄い事になっているけれども。
「なあ?マルスから見て魔王ってどんな存在なんだ?」
短い間の付き合いでしかまだ無いが、僕はこの牛獣人、マルスを呼び捨てである。
これに当人が怒らない、馴れ馴れしいと。だから僕も遠慮無くこうして話を振れる。
「ぶも?魔王様だべか?お優しくて、懐が深くて、深淵なる知識をお持ちだべ。こんなにも賑やかで活気にあふれた街になったのは全て魔王様の御手に因るものだべ。もの凄過ぎてオラたちの物差しじゃ計り知れない偉大なお方だべな。」
僕が「魔王」と口にした時に一瞬だけ寒気がしたのだが、それはきっとメイドから放たれた「殺気」だったんだろうと思う。
だけどソレが直ぐに引っ込んだのはマルスがきっと魔王の偉大さを話したからだ。
(どう言う事だよ・・・このゲームはファンタジー物だろ?何で街の風景が城以外全部「現代」の街並みなんだってば)
僕はそんな疑問が危く口から出そうになったが喉の奥へと直前で引っ込めた。コレを言うとメイドが僕を殺そうと襲って来るんじゃないかと思って。
でもその時にはマルスがきっと止めてくれるんじゃないかと根拠の無い事を思った。
何せ僕は今魔王の客としてここに居る。そんな客人に危害を加える何て以ての外だろう。
(いや、お客様は御帰りになられました、とか言った言い訳で僕を「消す」かもしれないじゃ無いか!)
そうやって襲撃は無いと思わせて油断を誘って奇襲を、などと言う事も考えられる。
マルスがあんまりにも僕に友好的で敵意が無いから気が緩んでいた。しかも相当に。
僕は落ちてきていた緊張感と警戒心を奮い立たせる。背筋を伸ばして呼吸を整えていつでも動き出せるように。
けれども僕くらいの強さで本気でこの場から逃げ出そうとした所で魔族のメイド一人に取り押さえられてしまうだろう。僕とメイドにそれだけの差が在る。
と言うか、城仕えのメイド強過ぎない?とここで今更に思った。
プレイヤーが「無理ゲー」と掲示板に次々に投稿した理由がどんどんとこの身に染み込んで来る。
どれだけなんだよ、と僕の心に少しづつ絶望が堆積し始めた所に魔王が戻って来た。
「やあ!遅くなって済まない!待たせたか?ちょっと世界を半周してきただけなんだけど、どれも全部俺には珍しい物ばかりでさー。ちょと時間オーバーしちゃったか?」