何で僕だけ「こんなにおかしい事は無い」
僕はマルスに案内されて真っすぐに魔王の城へと案内された。
その間に通った大通りは有り得ない光景と言って良いモノだった。
僕は城に着くまでの間ずっと「今なんのゲームを遊んでいるんだっけ?」と混乱をしていた。
何せ何処をどう見ても「現代」なのだ。高層ビルが建ち、どうにもそこかしこにあるお店はファッショナブルで。
道行く人々は僕の事を珍しいモノを見る目でこちらを見ていたが、その表情に嫌悪などが見られなかった。恐らくはマルスが僕を案内していたからだと思うが。
でも疑問だ。エルフ、ドワーフ、は僕に対して敵意を見せないと言った事も納得できる。しかし魔族はそれこそ本能的に、要するに、プログラム、システム的にプレイヤーに「敵対」しているはずなのだ。
ミャウエルがそうであったように。
その設定があるにも関わらずここに居る魔族たちが僕を見る目にそう言った感情や嫌悪感などのマイナスなモノが含まれないのはどうしてだろうか?
「そして、何で着ている服も現代ファッションなんだよ?しかも所々ファンタジー風味が入って御洒落感が逆に高まっているとか、なんなの?」
ゲブガルも、ライドルも、マイウエルも、ミャウエルも、俺の会った魔族はそれこそ服装、装備は正しく「ファンタジー」って感じのモノだったのに。
この「魔王の国」の住民は何処をどうしたらこうなった?状態だ。僕の頭を余計に混乱させたのはコレも一因である。
当然こうなった理由は魔王にあるはずだ。最初からこんなでは無かったのは事実である。掲示板にプレイヤーが初期の頃にこの場所に立ち入った時の情報を流している。
それを知っていた、掲示板の過去ログを漁ってそれを読んでいたからこそ「どうしてこうなった?」と感想が出て来るのだ。
これを知らないプレイヤーはこの「魔王の国」に初めて入ったらきっと「こう言う物だ」としか思わないはずだ。
そうこうしている内にどんどんと目の前に城が迫って来る。ここだけ切り取ると「流石は魔王の城」と言う存在感とデザインなのだが。
現代都市の中にいきなり西洋の中世ヨーロッパ的な城がドカンといきなりある光景は違和感しかない。
それでもマルスが歩き続けて城の中へとあっさりと入って行ってしまうから「え?」と漏らしてしまったが。
コレを拾ったマルスが僕へと説明をしてきた。どうやら僕の疑問を直ぐに察してくれたらしい。
「ぶも?いきなり城の中に入れたことが驚いたべな?魔王様は城の中に誰もが遠慮無く入れるように入り口はずっと開放したままなんだべ。御心が広いのだべ。その王の器は巨大なんだべ。」
理解が及ばない。城が完全開放されている?信じられない。いや、これは僕の中の勝手な固定観念なんだろう。
城と言えば厳重な警備が敷かれていて、中へ入るにも手続きが幾つも必要になり、ましてや魔王の城、ラスボスが居る場所なのだからうじゃうじゃとソレを守る魔物が城の中を徘徊している、そんなイメージだ。
そして城の中へと入る扉は厳重に鍵が掛かっており特別なアイテムが無いと開けられない、と言った分もそこに追加で入る。
城の通路も凶悪なトラップが満載で落とし穴はもちろん、解除の仕方を知らない者は一撃で命を落とす「初見殺し」も設置されていて、などなど。
魔王の城と言ったら凶悪極まりない、コレが僕の持っている「常識」だ。
だけどそんなモノは一切無かった。「騙されている?」と思う程に。玉座の間に僕は案内されてしまった。すんなりと。
(僕はソロだ。しかもステータスだってレベルだって、このマルスには全く敵わない、歯が立たない位の強さだ。そんな相手に小細工なんてする必要性が無い、か)
「ここで待っていてくれるだべか。椅子とテーブル、それにお茶も出すべな。おーい、お客さんだべー。宜しく頼むべなー。」
呆ける僕にお構いなしに城の通路にマルスの声が良く響いた。