何で僕だけ「分かっていた事だけど、展開が早過ぎる」
絶句した。どうしてか?ソレは目の前の光景が信じられなかったから。
「どうなってんだよ・・・」
立派な街だ。城下街だ。プレイヤーが掲示板に画像や動画で訪れた町や城などを投稿していたりするのだが。
その中のどんな場所よりもここは発展している、文明が進んでいると言える光景だった。
建物は現代のビルを思わせる高層。道は美しく整えられていてそこかしこに街灯が立ち、計算されているのだろう美しい街並み。
道行く人々?と言ったら良いのか、どうなのか?エルフにドワーフ、獣人、魔族、その他もろもろの様々な種が混在していて、そして誰もが良い笑顔。
「どうなってんだよ・・・」
此処は、何処だ?魔王の城では無かったのか?魔王城の敷地内では無かったのか?
自分が見ている光景が信じられなくてずっと呆けてしまう。掲示板に載っていた情報は欠片も何処にも見当たらない。
以前に魔王の城の中へと入ったプレイヤーが投稿した情報があった。それも僕は読んでいた。しかしその情報が全く役に立たない光景が目の前に広がっているのだ。
「・・・皆こっち見てるな?どうしてだ?あ、そうか、当たり前か。」
恐らくはここまで開く事が今までこの門は無かったんだろう。魔族が出入りする時は恐らく一人が通れるくらいの隙間しか開かなかったのだと見られる。
ソレが今や、その門は全開となっている。そして閉じる気配が無い。
誰も触っていないのにいきなり自動で門が勝手に開いたらそれこそ側に居た者は当然驚くのは当たり前だ。
何事かと騒ぎになるはずである。だけども誰も何も言葉を発しない。マルスすら。
僕はコレになんだ何だと少し焦る。やっちまったか?と。何をやっちまったのかも把握できていないが。
だがその時に門の内側すぐ目の前に黒い塊が突然空から降って来た。そう、降って来た。
まだ僕は門の外、中には入らずにその場に立ったままだ。
その黒い塊はゆっくりと立ち上がる。その姿は巨体で体に何やら紋様が入っていて顔はイカツイ。強面だ。背中には黒い翼が。
かなりの速度で着地したにも関わらず音も衝撃も全く無い。そいつは開口一番にこう言ったのだ。
「マジかよ!本当に開いてるじゃん!こんなに上手く行くとか有り得ねーだろ?いや、実際目の前の現実には言葉は無力だけど。うわー!それじゃあ俺ってばやっとこの世界を飛び回って遊びつくせるって事だよな!?ひゃっほーい!」
僕には理解ができなかった。全く持ってして「何言ってやがんだコイツ?」って。
目の前でヤバイ存在がはしゃいでいる光景が全く脳内に入って来ない。理解が追い付いて来てくれない。
「あ!君が例のプレイヤー?君は恩人だ!いやー!有難う!有難う!お礼がしたいな!何でも言ってみてくれ!できるだけ君の願いを叶えようじゃ無いか!」
そいつが近付いて来る。巨体だからその一歩の歩幅も大きい。だから、アッと今に僕の目の前にそいつは来た。
そして唖然として動けない僕の手をそいつは握ってきてぶんぶんと小さく連続で縦に振るのだ。そしてまた口を開く。
「何の問題も無く門も通過できたな。そして俺が城から、封印から出て初めて接触するのがプレイヤー、しかもやってくれた本人との挨拶を交わすとか。信じられないな!はははは!」
僕は信じたくは無かった。認めたくは無かった。この存在の事を。
有り得ないだろう?そんな思いだけが僕の心に満ちている。でもそんな事など関係無しにそいつは言葉をまだまだ続けるのだ。
「おう!マルス!久しぶりだな!森の哨戒ご苦労さん。さて、軽く世界を飛んでくるから、マルス、彼を案内してやってくれるか?俺の自慢の街をさ。あ、それと玉座の間に連れて行ってそこで歓待しようじゃ無いか。住民には祭りだって知らせておいてくれ。30分で帰って来るからさ。」
そう言った「魔王」は忽然と姿を消した。そう、魔王だ。掲示板に書かれている特徴と同じだった。
やっぱり「鍵」は魔王の封印を解くアイテムで、そして僕はこうして自分で決めた事とは言え、世界に魔王を解き放ってしまったのである。
「ぶも?ケンジは何を心配してるんだべ?魔王様はお優しい方だべ。何も心配いらないべ。無暗矢鱈と暴力は振るわない御方だべから心配無用だべな。」
マルスはそんな事を俺に伝えて安心させようとして来るのだが。
「そうじゃないってばよ!」
僕はいきなり封印を解いた後にこんな展開が待っているとは思っても居なかった。だからマルスのこの言葉にそんなツッコミしか言えなかった。