閑話「とうとうその時が」
「うわぁァぁァぁァ!やりやがったよ!どうしてくれるんだ!」
その叫びは運営のプレイヤー監視をしている部署で上がった。しかも突然に。
これに部長がその叫びをあげた監視員に近付いて何事かと理由を尋ねる。
「どうもこうも無いです・・・もう、オワタ・・・」
その監視員は疲れた顔をしてぐったりと椅子の背もたれに寄りかかる。
その様子に部長はその担当者の情報ディスプレイに出ている幾つもの項目を自分の目でチェックした。そして。
「おい、封印が解かれてるじゃ無いか!どう言う事だ!?」
「いえいえ、報告は上げていたじゃ無いですか。もうどうしようもないですよね?」
監視対象の「魔王」はずっとここ最近は大人しかったのだ。
土地開発に整備、農業に魔法開発、福利厚生、戦闘訓練、エトセトラ。
それこそ当初の頃の面影も無い程に「封印」の内部は発展に発展を遂げて富国強兵である。
魔王の国が誕生しているのだ。
「国づくりなんてし始めて魔王がおかしな行動をし始めたからなんだと思ったら、裏設定の「アレ」を引っ張り出したのは部長も知っているでしょう?」
「あれはプレイヤーが「館」を絶対に攻略はできないだろうと言う事で監視を緩めていたはずだろ?まさかその間に何かあったのか?」
ここで別の監視をしていたスタッフ来て話し出す。
「監視対象その②が、その・・・この短期間で鍵を全て揃えてしまったんです。それを今先程使用した形跡が・・・」
「は?今何て?」
鍵は「無職」が揃え、そしてソレを「正しい方法で」使用したと言っているのだ。
しかしこの三名は知らない。四天王三名がそもそもこの「無職」にあっさりと鍵を渡してしまっている事を。
この監視スタッフたちは当初「有り得ないだろ」とかなり甘く見ていたのだ。何をか?ソレは。
「どう言う事だ!と言うか、今は全てと言って良いプレイヤーが「悪魔王編」をやっている最中だろう?どうしてこうなった・・・」
監視が悪魔王編に向いていたから。
設定として当初は魔王はこの城から外へと一歩も出られない仕様だった。しかしここで「ソレは面白く無い」と言う鶴の一声が入って「裏設定」として用意されたアイテムがこの「鍵」だった。
そのアイテムは当初、絶対に使用される事は無いという前提で導入された。そしてその隠し場所もおそらくは九割九分九厘、見つかるはずが無いと言う場所に設置される事になった。
どれもコレも魔王の封印されている広大な土地の中に用意されたのだが。
一つは、大きな深い湖の底、その地底に。
一つは、城の後方にそびえる巨大な鉱山の地下奥深く。
一つは、広大な森の中、その地下水脈の中の何処か。
一つは、魔王が座る玉座の真下、地下深く。
である。こんなものは見つけられるはずも無い、そう考えていた運営はコレを許可する。
だがどうしたらそうなるのだと言わんばかりに魔王はこれ等を見つけてしまったのだ。
しかし見つかってもこの鍵には仕掛けがあって魔王の封印が即座に解けるというモノでも無かった。
その封印解除の条件は鍵を一度魔族の魔力で染め上げる。そしてソレをプレイヤーが使って鍵穴に刺しこむと言ったモノだった。
しかも魔力で染まった鍵はそもそもがそのままにプレイヤーが持てる代物では無い。
その魔力で染め上げた魔族が「認めた」者しか持つ事が叶わない代物なのだ。
その資格が無いモノがその鍵を手にすれば文字通り「消滅」する。そう、一つでも鍵が失われれば魔王の封印解除は絶対に無い、そんな代物だった。
それをどうしたら封印を完全解除になるのか?ソレがこの監視部署の全員が疑問に思っている。
「しょうがない!報告だ!上にこの件は丸投げするぞ!・・・どうせ「そのまま何も手出しするな」って言われるだけだけどな・・・」
大きな溜息を吐いて部長は部下へと命令を出す。その内容に同じく溜息で答える部下たち。
「はい、分かりました。つか、これからの展開どうなるんだよ・・・魔王が自由に動き回れるようになって、それで、プレイヤーの運命は?悪魔王編は?」
誰もがこのカオスに不安を覚える。こんな展開は前代未聞だ。どんな事がこの先待ち受けているか想像もできない。
彼らも「無職」のプレイヤーを監視対象に入れてはいたが、そこまで密度の高い監視を置かないでも良いだろうと油断をしていたのだ。
結果がこれだった。コレにより、この先に起こる「いや、それは無い」と言う展開に今後も監視スタッフたちは苦しめられる事となる。