何で俺だけ「仕事の時間」
出社だ。とは言え、今の時代は家に居ながらできる。仮想空間へと会社専用のヘッドギアを被ってVR空間へ。
そこで自分の受け持っている仕事をするだけ。
本社ビルはここから大分遠いし、それこそそこに実際にこの体を出社させようなどと思ったら四時間近い時間が掛かる。馬鹿も大概にしろと言えるだろう。
VR空間でどのような仕事をするのかと言うと、データ整理だ。半透明の中空に浮いたディスプレイに、これまた半透明の中空に浮くキーボード。
これらを使って俺の所に流れてくるデータを指示された通りの方法で処理するだけ。何ら難しい事は無い。
完成したデータはそのまま次の仕事を受け持つ奴へと流し渡すだけ。次々に流れ来るデータをそうやってだらだらと熟し続ける仕事。コレが俺には合っていた。
何も考えずに指示された通りに仕事を熟せばいい。コレが単純に思考停止で俺の脳が疲れない。
こうして一日の全てが終われば余裕のある脳味噌はゲームに全開だ。しかし三連休に全開するはずだったそれは行えず、結構なもやもやを残してこうして俺は仕事に専念させられている。
「おーい、どうした?いつもならもっとさわやかな顔してるはずなのにな?」
仕事仲間が声を掛けてくる。このVR空間は非常にリアルに近い。むしろ全く同じと言っても過言じゃない。人とのコミュニケーションもしっかりと取れる。
そう、VRゲームの中と何ら変わらない。データのやり取りだけなら自分の家でパソコンを使い、送られてくるデータを処理して返送するだけで充分なのだが。
人同士のコミュニケーションが全く無い事は一定の人々にはストレスになると言う研究結果が出た事でこうした事になっているらしい。詳しい所は俺も全く分からない。
分からないが、別段この事を俺は気にしちゃいない。そしてこの同僚が掛けてきた言葉にも別段どうと言う事も無い。
「ああ?思い通りにいかない事があれば人ってこんなものだろ?」
軽口を言って返事とし、俺は自分の仕事を止めずに続ける。
「お前って乾いてるよなあ。あ、そうだ。あのゲームやってるかお前?ほら、えっと何だっけ?」
「お前さ、次に終わらせる仕事、進捗は?そのデータ俺に回すんだろ?出来上がってるのかよ。待ち時間ができると暇になっちまうんだが?」
「お前真面目過ぎるだろ?もうちょっと同僚とのおしゃべりをしようぜ?」
乾いていると言われる筋合は無い、と言いたかったが、自分の仕事を終わらせるのに集中してこれを無視する。
「俺の自由時間が減る。お前がちゃんと仕事を終わらせてある証拠を出してくれたらちょっとくらいは付き合ってやるよ、そのお喋りって言うのにな。」
「うへえ。へいへい。あともうちょっとだから、そう睨まんでくれよ。俺だって自分の時間確保のために精一杯仕事を熟してますってば。」
そう言うと同僚は一瞬にして姿が消える。そう、この空間は姿を消すのも出すのも自由だ。
こうして人とのコミュニケーションを取る時だけ姿を見せると言う方法も取れる。そして俺はこのオンオフに対してオフを基本にしている。
なのでああいった声を掛けてくる意思のあるモノしか俺のこの視界には入らない仕様だ。ちなみに周囲に人の気配が無いと仕事が捗らない、と言った珍しい人もいたりする。
こうして俺は昼の時間までにみっちりと自らに与えられた仕事を熟しきってから昼食に入った。




