何で俺だけ「頭痛が痛い」
さて、魔王が選ばれた瞬間に俺はキャラメイキングなんてさせて貰えずにいきなりここに飛ばされたと言う訳だ。
「え?なんか俺の姿どないなってんの?あからさまに俺の元の身長を超えてるし?体格もマッスルマッスル!してるよね?」
「魔王様、ご自身の姿の確認をなされたいのですか?ならばこちらを。」
そう言って美女魔族の参謀のNPCが右手を前へと上げる。すると俺の視界の前に「なんじゃこりゃぁ!?」と言うもの凄い形相の存在が現れた。しかしそいつは直立不動で何ら動きが見えない。
身長は2m灰色のズボンを履いていて上半身は裸。しかしその上半身には赤黒く脈動する線が所狭しと走っていた。
そして顔だ。その顔は今も大人気の格闘ゲーム、ス◯リート●ァイターに出てくる「●鬼」みたいだった。その顔からは殺意の波動がモロ出しである。そしてその背中には六対の蝙蝠の巨羽が。
「魔王様の背にそびえる羽は今はそのお座りになられている玉座に神々が封印をしており、魔王様がそこから動く事、叶いません。絶望と共にその美しさに目を奪われる完全体なる魔王様のそのお姿を早くこの目で直に見とうございます。」
「もしかして、これ、俺?キャラメイク無し?え?魔王、ヤバくね?」
俺はこのゲームをする上でネット上の友人と一緒に遊ぶつもりだったのだ。約束もしていた。なのに、コレだ。
なので魔王ムーブとかやってられない。こんな喋り方では威厳もへったくれも無いが、それでもこの目の前の魔王に心酔する美人魔族の参謀NPCは別に魔王に対して幻滅した様な態度は見せてこない。
「逞しい魔王様の脚も、その玉座へと封じられ、動かす事ができずにおります。その一歩を踏みしめれば大地母神が悲鳴を上げるはずのその力も、今は憎き神々が封印を施して自由に魔王様は動けなくさせられているのです。」
悲し気にそう顔を俯かせるNPC。さっきからこのキャラの名前すら聞いていない。そしてこの部屋には俺とこのキャラ以外が居ない。部屋へと入って来る者が他に居ない。
と思っていたら目の前に映し出されていた魔王の映像は消えた。そして俺にどうしますか?とNPCは問いかけて来る。
「魔王様は復活したばかりで未だ混乱している模様。でしたら何か分からない事があればすぐにでもこの私「ミャウエル」にお申し付けください。どのような要望にも全力で!応えさせていただきます。」
変な部分に気合入り過ぎ問題。今の時代、こうしたゲームにはNPCに人工知能を搭載している事が当たり前になった。膨大な情報量がこのキャラにも使われていると言う事がこの「全力で!」の気合の入れように見て取れる。
この「ミャウエル」は魔族の復権、魔王による世界の統治、魔族を攻めてくる人種への怒りに燃えている。
「じゃあさ、ミャウちゃん。俺、ログアウトしたいんだけど、どうすればいいの?」
俺は先程から意識をそちらにずっと向けているのだが、反応が無い。これまで遊んできたゲームでは即座に目の前に「ログアウトしますか?」と言った文字が浮かんできたのだが、今回、それが無い。
まさか与太話でしかありえない「デスゲームか?」とも一瞬思ってしまったが、ミャウちゃんと呼ばれた参謀NPCがビクッと身体を飛び上がらせているのを目にしてそんな思考も吹っ飛んだ。
「みゃ!?ミャウちゃん!?そ、それはわ、私の事に御座いますか!?」
何だか俺はこうして魔王になってしまった事が未だに呑み込めないでいる。俺は心の整理を付けたかったのだ。なので一旦ログアウトして自分の現状を整理したかった。ゲームの中ででは無く、現実の世界で。