何で俺だけ「気付けない」
「さて、ようこそ。君たちの力を私に見せて欲しい。」
俺はミャウちゃんに攫われてきたプレイヤーへとそう言い放つ。コレは今回の件を進めるうえで決めていたテンプレセリフだ。
俺がプレイヤーだとなるべくバレない様にするための定型文と言う事である。しかし幾らかのプレイヤーには恐らくはこの俺、魔王に「中の人」が居ると確信されたかもしれない。
それでも俺は魔王の封印を解いていない今の状態がどれくらいの強さなのかの検証をしておきたかったのだ。
俺はゲーマーだ。一応はこの「魔王」にはまだまだ納得いっていない部分もあるにはあるが、こうなってしまっては楽しめなければ損を一方的にするのは俺である。いつまでも不貞腐れていられない。
俺は腐ってもゲーマーなのである。
「全力で掛かってきてくれたまえ。」
俺の声は魔王仕様に今なっている。ミャウちゃんと話す時には地声で喋っているが、もしかしたらプレイヤーの中に俺の事を知っている奴がいるかもしれないのだ。
そうすると地声で喋ってしまうと完全な「身バレ」を起こしてしまう可能性がある。なのでそこら辺を注意するために俺は魔王仕様で今喋っているのだ。
「うお!?マジか!ホントに掲示板で書かれてたのと全く一緒じゃん!」
「でもそうなるとだ?・・・死に確定?レベル下がんじゃん!マジかよこんなクソイベ!」
「これって運かな?って言うか、掲示板で検証がやってたけど、レベルがどの被害者も大分高い人たちばっかりだって話なんだよねえ。」
「え!?うっそ!じゃあ俺らは?別に俺たち今のレベルって最前線組と比べたら低いじゃんね?どう言う事?」
「あー、それな。俺らエンジョイ勢だし?メインストーリー進めてた方がレベル上がるからなあ?サブクエばっかりしてるとこんなんじゃね?」
「あの、そんな話をしている場合じゃないと思うんですけど?」
最後に冷静に突っ込んだ女性プレイヤーはおろおろと俺とそのパーティー仲間を交互に見る。
と言うか、この五人の男性プレイヤーの声には聞き覚えがあった。そう、はっきりと。
(マジかよ、この裏切者共が・・・そうだな、こいつらを滅茶苦茶にボコってストレス発散しよう)
早くもこうして制裁を加える機会が訪れた事に俺は暗い笑いでニヤリと表情を作る。
「うげ!魔王すげえヤバい顔!どうする?どうせならいつも使わねえド派手な準備が必要な必殺攻撃しとく?」
「ああ、全員が属性をそろえてブッパする魔法とかヤバいよな。あれでイカねえ?」
「それって使い処が無くて産廃とか言われてたシステムじゃん!いいね!死に確ならやっとこうぜ。」
「こちらが攻撃するまで相手が手を出さないらしいからな。じゃあやってみようぜ!」
「炎?それとも氷?ああ、ちょっと待てよ?光属性は?って言うか、この合成魔法攻撃ってさ、準備しておいて敵をおびき寄せる形で使えばいけそうじゃない?」
「あの?この場所って魔王城なんですかね?ならメインストーリーの最終面だって言う事じゃないですか今って。魔王を倒すのが目的なんですよねこのゲームの最終目標って?私たちのレベルじゃ当然敵いっこ無いですし、もしかして回避できるルート?って言うんですか?それがあるんじゃないんですかね?」
五人が盛り上がる中、一人だけもの凄く冷静に状況を見つめる女性プレイヤー。
(そうだなあ。この女性プレイヤーには非は無いよな。見逃しても良いかな。結構かわいいし?って言うか、裏切り者全員、キャラメイクで課金してるやんけ。声を聴かなきゃあいつ等だって気付けなかったっつーの!)
ドイツもこいつも顔が不自然にイケメンだ。そう、このゲームは顔を課金で「イケメン」に変えられるのだ。
こいつらがそろいもそろって顔を変えているのは別にそう言う仕様だからこれ以上は文句は言うつもりは無い。
(だけど、この女性プレイヤーは課金・・・うーん?してない!?うっわ!スゲー可愛いじゃん!コレ、モノホンかよ。アイドル並みじゃねーか・・・)
この裏切者たちがこの女性プレイヤーと「姫プレイ」してんのか?と想像してかなり俺はドン引きした。もしかしたらそう言った遊び方をしてはいないかもしれないが、俺になんの断りも無くこの女性プレイヤーをパーティーに引き込んだのも頷けると思った。




