何で俺だけ「誘拐の裏側」
彼女はミャウエル。魔王の側近だ。彼女は今回、魔王からの勅命で動いていた。
プレイヤーの居る街を様々に移り行き、その時その時に目にした一番レベルの高い者たちを攫うと言うモノである。
彼女は「糸使い」そして「隠密」が強さの根底にある、いわゆる「盗賊系」などと言われる戦闘職寄りであった。
「この度の魔王様からの直々のご命令、御満足していただけるような仕事は当たり前だ。それ以上のモノを献上できるように努めるのが私のすべき事。ならばどうするか・・・」
これまで何十と言うプレイヤーを誘拐してきたミャウエルは悩む。どうしたら魔王の満足を100パーセント以上に引き出せるかを。
命令を只単に熟すだけでは完璧とは言えない。この身、この命を燃やし尽くしてでも仕えてこそ。自らの仕える存在に喜んでもらえる事が全てであるとそう思っている。自分の命を掛けてでも。
「さて、魔王様は「検証用の情報」がもう少し欲しいと言っておられた。ならばまだまだもう少しだけ奴らを攫う必要がある。魔王様の御側を離れている時間がもどかしいが、早く仕事を熟して戻ればいいだけの話だな。よし・・・奴らがこの街の一番レベルの高い者たちか。ならば奴らを攫う。」
今回の魔王の要望を満たすためにミャウエルは自身の能力を魔王へと説明した。そしてその時に大いに魔王から賛辞を貰い、天にも昇るような気持ちになっている。その高ぶりは時間が経ち、少しは落ち着いているのだが、彼女はその時の事を思い出すだけで気持ちが今だに昂る。
この度この任務を遂行する上でミャウエルは魔王から「強化」を受けている。しかも最大にまで。
コレはミャウエルが城から出て仕事をするのに魔王が彼女の身を案じたから、と言う理由からでは無い。
魔王の性格に因るものだった。魔王の中身「間島健斗」はこれと決めたキャラを自分が決めた数値にまでパワーアップさせないと次に行けない、と言ったタイプのゲーマーだったのだ。
なので今回の「魔王が今のプレイヤー勢の最高レベルに対してどれくらい通用するのか?」の疑問を解消するために派遣するミャウエルを強化したのである。
溜っていたポイントを全て注ぎ込んでギリギリで最大値まで強化しきったミャウエルをこうして魔王は送り出したのだ。
この事にミャウエルは今でもその事を思い出すたびに身が震えるほどの感動、喜びに打ち震える。自分ごときにこれだけの力を与えてくれる魔王へ畏敬の心で。
こうして堂々と街中に存在するミャウエルをプレイヤーたちは見破れ無い。彼らのレベルがまだまだミャウエルの隠密を破れる程にまで到達していないからだ。
ギリギリ違和感を感じる程度のプレイヤーは居るのだが、それでも、それがたった今も話題沸騰中の「誘拐事件」に繋がっているとは思わない、思えない。
なので今回も易々と、そして堂々と、一つのプレイヤーパーティーが攫われるのだった。
その今回餌食となるパーティーの名は「ランナーズ」。彼らの事を魔王が「裏切り者」と呼んでいる事をミャウエルは全く知る由も無い。




