何で俺だけ「説明」
このゲームは先ず最初に自分が操る分身を作る所から始まるのだが、いきなり職業から選ぶ仕様になっている。
先ずゲームを始めると何も無い真っ白な空間に入り、自らが初期開始にどの職に就くのかを選ぶのだが、項目はそこまで多くない。
ゲームを遊び続けてランクアップ、あるいは特殊クエストなどをクリアして様々な上位職へと変わる仕様だ。
剣士、僧侶、魔法使い、武闘家、遊び人、商人、調教師、錬金術師、薬師、鍛冶師、調理師、斥候。
あとまだもう少しあるのだが、こう言った職業を最初に決めさせられる。
それは何故かと言うと、その職業の決められた装備と言うのが参考として、自分の分身が着た状態で目の前に現れるのだ。その装備のバリエーションは多く、初期でこの様な装備がありますよ、と言った紹介として数種類あり、それらを入れ替えて実際にゲーム内でこの様な姿で遊ぶことになると言った「触り」が最初に確認できる。
いや、そもそも職を先に決めるとそこから変更ができないって言う仕様はどうなの?と言う所だ。自分の分身に最初に決めた職以外の他の職の装備を反映して検討できないのだ。
こんな仕様なのにもかかわらず、このゲームは人気を出した。不思議だ。
そこから目の色、髪型、体格、プラマイ5cmで背の高さを変えられる。
顔はと言うと、自身の顔をそのまま反映された物が先ず分身に投影されてるのだが、ここで課金するとその顔を「イケメン」に女も男も変えられる。
変な部分に運営は課金をさせようとするなぁ?と俺は思っていたのだが、コレがもの凄い勢いで売れているらしい。そこら辺はどうなの?と感じなくも無かったのだが、顔が不細工だと自らが判断している人にとってはこの課金はありがたいのだろう。と言うか、遊ぶにあたって課金は当たり前、だとでも思っているのか。
要するに、「別世界」であるんだから現実の「自分」をそっちに持って行ってどうする!と言った物であるらしい。ゲームの世界だけは、別の自分を演じる。そこに現実の自分の顔なんて入れたくも無い、と言った具合かもしれない。
さて、ここで諸々を決めた後でさあゲームの始まりだ、と言う訳なのだが。ここで先ずもう一度、職を決める所に戻りたいと思う。
この職を決めるのに際し、複数の職から自分で選んで決めると言うのが基本なのだが、いや、普通はそれ以外に無いのが当たり前だろう。
でもこれ、ルーレットで自分の職をランダムで決めると言う方法が選べるのだ。職を選ぶ際にそのランダムを選ぶと、自分で意思を示せるのは決定ボタン一つのみ。職の決定にルーレットを止めるボタン、それを押すだけと言う行動しか選べない。
ランダム、を選んだ時点でもうそれ以外の行動は取れなくなるのだ。もの凄い思い切った仕様である。
自分で選ぶ場合は職を決めたら「こちらでよろしですか?」が出てイエス・ノーのカーソルが浮かび上がってくると言うのにだ。
「しかも完全に九割九分九厘、普通職なのよね。最初期に選べるモノしか入ってない。で、残り一厘の中にレア職って言うのが入ってるらしいけど、凄いなぁ検証班?このルーレット高速過ぎてどんなのが混ざってるのかもすら判別できないのに。まあ完全に運だって言うのは火を見るより明らかだけどさ。」
このルーレット仕様に対して運営は何の情報すら漏らしていない。でも世界に散らばる勇士によって検証班が立ち上がり、このルーレットには何かが隠されている、と言ってこのルーレットを何万人もの人が挑戦したのだ。
そしてその中に一人だけ、初期職業では選べない職を取る事に成功した人が出たと言うのがネットに流れ大騒ぎに一時なったのだ。
「一週間遅れで始めた俺も何だかんだ言ってこのランダムを選んでしまった訳だが、さてはて、皆がもう初期の街で待ってるはずだし、さっさと設定決めねーとな。俺も。」
だけどもそれがいけなかったのだと思う。俺は何の気合も気負いもせずに頭の中を真っ白にして決定ボタンを押してしまった。何気なく、軽く。
俺はこのゲームをする上で高い買い物をした。このゲーム専用のお高いソファを購入したのだ。
そのソファに寝転がり、目を瞑るだけ。そんな簡単な方法で勝手にこのソファ内蔵の機械が俺をゲームの世界へと入り込ませてくれる代物で。
百万以上した。それを言ったらゲーム内友人たちが「廃人」と揶揄してきた。
俺は別に廃人じゃない。使っていなかった、ずっと溜まっていた貯金を吐き出すならここだな、と。このゲームをする上で決断しただけだ。
そして俺はこのゲームで最初に決まる事となる職業で「魔王」を引いてしまったのだ。