何で俺だけ「試行錯誤の行く末」
メリーの一件から翌日のログイン。の前に俺は「掲示板」を見ていた。
「うーん?どうやら魔王に関しての事が最近は話題なのか。確かにねー。「偽物」が暴れ回ってるようだからな。」
どうやら以前の一件、「自称魔王」がウチの部下にコテンパンにやられているそれ以降で、その魔王がプレイヤーへと頻繁に接触しているようなのだ。
「どれどれ・・・」
俺はその掲示板からその「自称君」がどんな事を口走っていたのかを書いているプレイヤーのログをピックアップして読んで行く。
「もっと俺は強くならなければならない。だから、お前たちはその糧となれ。」
「俺は魔王なんだ!この俺が負けた?あり得ないんだそんな事!」
「力だ・・・力が必要なんだ!・・・死ね!お前たちは俺の役に立って死ね!」
「まだだ・・・これくらいじゃ足りない!もっとだ!もっと力を・・・!」
「コレぽっちしか得られんのか・・・ならばもっと狩ってやる!」
「虫けら共が俺の力となれるのだ!光栄に思え!」
「この俺が弱いだと・・・弱いだとおおおおおお!貴様ら雑魚の分際で俺様を侮辱するとは良い度胸だあああああ!」
「俺は頂点になるんだ・・・俺こそが魔王に相応しいんだ!俺こそが魔王!そうだ!俺が!俺がぁ!」
「貴様らの様な毛虫どもが俺を偽物呼ばわり・・・その偽物に殺される気分はどうだ?ふは!ふは!フハハハハハはっは!俺こそが魔王なんだ!魔王だ!」
「死ね!死ね!・・・死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇぇぇ!神の兵だと?そんなモノは俺の前では無力に等しい!そうだ!俺こそが!俺に敵う奴は居ない!そうだあれは何かの間違いだぁ!」
こうしてプレイヤーが耳にした「自称魔王」のセリフを集めて読んでみたのだが、コレはアカンと思った。
「こいつ、半分壊れかけてるな?ショックでか?それとも自分の許容以上に「力」を得ちゃって精神が罅はいってるん?まあ、何にしろ、自滅しそうだなぁ・・・」
コレに対してプレイヤーの反応、及び結論はと言うと。
「遭遇したら終わりだと思え、か。相当に暴れてるんだな。ヘイト稼ぎまくりジャン?もしかしてその内に大規模な討伐作戦とかをプレイヤーが立ち上げるんじゃなかろうか?俺に会った事があるプレイヤーがどうにも接触した時に「偽物」とか言い放ったみたいだなぁ。」
それだけどうやらプレイヤーの敵意を買っている自称魔王。プレイヤーの間では魔王と名乗る魔族とこうして頻繁に遭遇する事で「こっちが本物なの?」と言ったログもある。
そっちは魔王を自称しているだけの魔族ですよ、などと俺が書き込みをする事は当然ながらできない。
「偶然に遭遇したりしても倒せる見込みが無い、と。そんで保険として「逃げ切れる装備」を揃えてるんだな。そうか、速度重視で少しでも生き残る手段を取ろうって事ね。当たらなければドウと言う事は無い?」
逃げ回ってもしつこく追い回され、そして一撃食らえばそこで終わり。それならばいっその事「一撃も当たらない」のを目指してそれ以外を全部捨てて逃げ切る。全力で走る。コレはもの凄く大胆な結論を導き出したものだと俺は感心する。
「それでも中には「打倒」を掲げるプレイヤーも居るのはスゲーよな。諦めない根性?でも、そう言った「考える」の自体が楽しいって事もあるよね。」
思考錯誤、どうしたら倒せるのか?そうして導き出した作戦で挑み、倒せた時の感動と快感は凄まじい。全身が震える。まあ、負けた時の悔しさもそれ相応にデカいが。
そうした体験をするとそれが病み付きになる。また成功体験を受けたいと強く思ってしまう。
そしてまた試行錯誤を、新たな挑戦をしてしまうと言った強烈なスパイラルと言うのがある。
苦労と労力、そして努力、苦悩もまた良い思い出、それらは達成できた時の喜びをより一層高いモノに変えるためのスパイスになる。
「・・・自称君はどうやら自分が負けた理由の本当の意味は分かっていないみたいだけどな。」
確か「自分よりも弱い者としか対峙してこなかった」だったか。しかしそうするとウチの魔族たちも同じだと思うのだが、そこは訓練の差が出たのかもしれない。
「ああ、そう言えば確か訓練では時々ミャウちゃんやらゲブガルとか、マイちゃんが訓練で相手をしてたとか言った報告は受けていたっけ?」
四天王で、そして俺が既に「最大強化」までしてある、そんな相手と戦う。勘弁願いたい。俺がもし一般の魔族であったならそう思う。
勝てるはず無い、天地がひっくり返っても。そんな風に感じる。
「実際に俺もこの魔王の身体で何度もミャウちゃんと格闘訓練してるんだけどさー?未だになんだろ?勝てる気がしない、って思うの。それくらい強いんだよ?」
スペック的にはミャウちゃんに劣っていない所か、寧ろ上回っているはずの俺のこの「魔王」の身体。それでも「中身」の俺がそうした実戦格闘を全く知らない、経験なんてした事も無いド素人だからだろうか?
今の所まともにミャウちゃんから「一本」を取れた事は無い。一応は手加減やら手心を加えて貰って取った一本はある。
しかしそれは対面した相手の「隙」を捉える為の訓練の時に、ワザとミャウちゃんが作り出した隙に対して俺がソレを見極めて攻撃すると言った感じのモノだ。
「これじゃあ幾らプレイヤーを狩っても偽物君は強くなれないんじゃないのか?必要なのは自分よりも強い相手と戦う経験を積む事だろ?それに・・・」
このままではこの自称魔王はプレイヤーから手痛いしっぺ返しを食らいかねない。そう思う。
そしてその反撃はもしかしたら「致命傷」で、それをそのまま食らえばそのままやられてしまう、って事もあるかもしれない。
「できれば死なせたく無いんだけどなー?良いキャラしてるみたいだし?でも、今はもう半分壊れてるっぽいから、もう遅いのかもしれないんだよなー。成り行きに任せるしかないのかな?」
説得して仲間に引き入れるなどと言った事はきっと無理なんだろう。俺はそんな事を考えた後にようやく今日のログインをした。