何で俺だけ「新たなる「命」の誕生」
俺が魔力を過剰に込めたその人形は変化を起こしていた。誰だってこんな事が起これば「ありえない」と呆けてしまうと思う。
俺はようやっとそんな気持ちが芽生えてその手の中にある人形を手放していた。
それは宙を美しく舞い、華麗に着地する。コレは只の人形だ。バイゲルが魔力を通して操らなければ自由に動く事は無かったはずだ。
だからこれもバイゲルがやったんだと思ってそちらを見たら、その当人は「私ではありません」とでも言いたげに首を左右に振ったのだ。
俺は内心で「え?」と思う。ここには他にこうして人形を綺麗に動かせる人物なんていない。出来るとすれば「糸」を使うミャウちゃんくらいだが、彼女は今この玉座の間に居ない。
「こうして命を吹き込んで自由をくださり、魔王様には感謝と忠誠を。ああ、コレが感じる、という感覚。素晴らしいモノですね。」
俺とバイゲルの目の前には美少女が居た。しかしその存在はおかしい。
まるで「人」の様な生々しい存在感なのに、美少女プラモ?ドールと呼ばれる着せ替え出来る美少女人形?
各関節は節があり、しかしてその顔、表情は生きた人のそれのように脈動して動く。
言って見れば素っ裸。しかして人形だから「大事な部分」の各場所はのっぺりとしていて安心する。
(いや!安心している場合じゃ無いからね!?どう言う事なのよ!?バイゲル!説明してくれぇ?)
美しい銀髪は腰まであり、その顔の作りはエルフに勝るとも劣らない美貌。いや、人形だから当たり前なのだろうか?
作られた美貌めいた違和感と不気味さを抱えたその美少女の顔はきりりと今は引き締まり、床に片膝を付いて控えていた。
「これからも私は貴方様の鉾、盾となり、この身が破壊されつくし動けなくなるまでお仕え致します。」
「え、えーっと?うん、有難う?これからもよろしく頼むよ?」
俺はここで何か言わないと駄目だと思って咄嗟にそう返事をした。したんだが、そこにはまだまだ事態が呑み込めないでいる困惑が含まれるのは御容赦願いたいのである。
「そんでもってだね?バイゲル・・・これ、どう言う事?」
「はい、使われている素材がどうやら今回のコレに影響を及ぼしている模様です。」
俺はこの人形に使われた材料がどの様なモノかは詳しく知らない。いや、知らない方が良いんだろうと思う。
ここはファンタジーだから、アクセサリーに使うと自分の命の危機に身代わりになって砕けてくれるとか言った不思議な石とかが実際に有るのはもう分かっている。
それとはまた別で自身の魔力を込めると幻影を出すとか、或いは実体のある分身を生み出すとか言った道具とかが、もしかしたら在るかもしれない。
別視点で言うと、もしくはホムンクルスなんて言う人工生命なんかも作り出す事が可能かもしれない。
そんな事を思考すれば「もやっ」と、「ぼんやり」と何となくは理解できる、目の前の現象を。なので今はこれ以上の頭痛をなるべく起こさない様に深く考えるのは止すべきだ。
「あー、分かった。分からないけど、分かった。これからもバイゲルの守る領域で活躍してくれ。・・・あー、そうだな。そうやって「自我」が芽生えたんなら、名前もこの場でつけて上げようか。」
俺はここで一つの都市伝説をふと思い出す。名前を与える何て単なる思い付きだ。しかしこう言った特殊な存在は「ネームド」にする事で何か面白おかしなキャラへと進化を遂げる何て言うのは良くある話だ。
「君の名前は「メリー」だ。うん、見た目が凄く可愛らしいし、良いよな。名前の響きもこれならあってるだろう。と言うか、バイゲル、先ずはメリーに似合う服を着させてやって。」
こうして新しい仲間が増えた?と言って良いのかどうかは分からないが、このメリーがまた新たな「伝説」を作るかもしれない、そんな予感をこの時の俺は感じたのだった。