何で俺だけ「じわじわと消される」
逆さ釣り、その顔は皮膚が無く、眼球が無い。口からは血が駄々洩れており床を濡らす。その存在は長い黒髪がふわりと浮いて不気味さをより一層上げていた。
そんな代物が突然顔の目の前、本当にすれすれに御登場。プレイヤーたちは隙とも言えない、ほんの一瞬の意識の空白にソレを潜り込まされた。
「ひっ!?」
呼吸が止まる。心臓が震え上がる。それらの動きは彼らにとって致命傷。その存在がスーッと自然に手を伸ばし、そしてそのプレイヤーたちのリーダーを務めていた男の顔に「ペタリ」と触れる。
その次の瞬間にはその男は光となって消えていた。それはプレイヤーの誰もが恐怖の対象とする「即死攻撃」だった。
ソレはゲーム内の仕様、コレを目にして魔法使いだろうプレイヤーが真っ先に我に返って魔法を放つ。
「うっ・・・!?うわあああああああああああ!」
叫び声と共に放たれたのは「炎球」だった。コレに残りのプレイヤーもやっと戦闘態勢に入る。入る事ができた。
残り四人で何処までできるのか?魔法攻撃が当たった相手に対して、その燃え続ける「人形」に対して彼らは底を尽き掛けていたMPを振り絞って全力の攻撃を仕掛ける。
「ひやああああああああ!?」
「くるんじゃねええええええええ!」
「やって・・・やってやるよおおおおおおおお!」
同じく一拍遅れて仲間も攻撃をし始めた事で初撃を放って敵に当てる事に成功していた魔法使いはホッとしてこの時に気を抜いた。
ここからは「何も起きない恐怖」とは打って変わって、敵として、倒すための対象が目の前にある事に。
四人でもやれる、回復役がやられているが何とかなる。ここの屋敷の秘密を解き明かす為、俺たちは礎になれる。
目の前の燃え続ける人形に対してそんな意識を向けていた。未だに長く燃え続けても何ら変化が見られない事を理解もできずに。
ここで三人のプレイヤーが撃ち込んだ攻撃がその人形の腕に切り傷、脚を欠けさせ、胴体をへこませた。
流石は最大レベルにまで上げ切っていたプレイヤーの必殺技だった。人形に被害を加える事に成功している。
当然コレは「魔王」が魔力を込めた人形だ。その程度で完全破壊にまでは至らないのだが。
しかしプレイヤー側からしてみればそんな事は知らない。この目の前に出て来た敵は倒せる、そんな高揚した気分になった。
今までこの屋敷の犠牲となったプレイヤーたちの様なやられ方を自分たちはしないで済む、そんな事を心の中に浮かび上がらせている。
被害に遭ったトラウマを抱えたプレイヤーたちに散々聞き取り調査をしたのだ。やられた理由は「恐怖」であると。
この状況ならそんな恐怖は無いだろうと。こうも派手に戦闘に入ったのだからこれ以降は「ボス戦」で、只々目の前の敵を打倒する事に専念すればいい。
そんな事を思ってしまった。深く、心に。その隙がバイゲルが狙う「心の隙」だとは思いもせずに。
そしてその心の隙をついて既にバイゲルは行動を起こし、そしてこの時には既に一人始末を終えていた。
「おい!もうリキャストタイム過ぎてるぞ!追撃をしろよ魔法で・・・あ?」