何で俺だけ「逆に油断を誘う」
恐らくはこの戦いは始まった時から我慢比べだったのかもしれない。どちらが先に尽きるか。
その尽きると言うのはプレイヤーの「精神」と、バイゲルの「忍耐」で。
「な、なにも起きないぞ!?どうする!?もうそろそろMPが無くなる!」
「まだまだ粘れ!マジックポーションは残ってるだろ!?」
「お前ら、止まるんじゃねーぞ?走り続けるんだ。」
「カッコつけながらソレ言う?でも、少しだけ気が和らいだわー。」
「呑気な事言ってる場合じゃ無いんじゃね?これって逆に俺たちが追い詰められてる感じだろ・・・」
「お喋りをするのは良いけど、破壊は続けて!止まったらヤバそうだから!」
何かがある、何かが起きる、そう踏んでいたプレイヤーたちは今もまだ屋敷に変化が起きていない事、具体的な何かが全く出てこない事で逆に精神が追い詰められていた。
しかしここで何もしないでジッと耐えているバイゲルもプレイヤーと同じくらいに追い詰められている。焦っていた。
(このまま破壊を続けられれば致命的だ。しかし、まだだ。まだ奴らの緊張の糸は・・・)
バイゲルはプレイヤーたちのその緊張がゆるむ、切れるタイミングをジッと見極めようと耐えていた。
人の心理の中で一番のダメージを食らうタイミングはその「油断」をした瞬間である。それをバイゲルは狙い続けていた。それこそ、気配を消した狩人の様に。
そしてその時は訪れた。プレイヤーたちの破壊行動がピタッと止んだ。屋敷内にまで侵入し、あちこちへと攻撃を仕掛けていたソレはやっと息切れを起こしたのだ。
とある一室でプレイヤーの誰とも知れない「ふぅ」と言う溜息。それがピタッと彼らの行動を一時的にでも弛緩させた。
ホンの一瞬の静寂、そこに「キィイイィィいいいいやああああああああああ!」と言った人のモノとも、そうで無いモノとも取れる様な奇声が響いた。
油断とも言えない、そんな一時的な「空白」。そこを突かれたプレイヤーの全員がコレに硬直をした。
「なぁ!?な!なんあななななな!?」
一人がコレに驚きでアタフタと声を上げる。その時にはもう。
「おい!今さっきのは何だ!こ・・・攻撃されたのか!?」
「・・・おい、冗談だろ?一人・・・消えた・・・」
その消えたのは「回復役」のプレイヤー。しかしそんなプレイヤーたちの絶望に追い打ちをかける叫びが屋敷内へとこだまする。
「ぎィいいいやああああああああ!」
その叫びは先程消えた「回復役」の叫び声。コレに残された五名のプレイヤーは縮み上がる。
「向こうだ!もうこうなったら行くしかない!皆!ここまで来たんだ!行くぞ!」
「うおおおおおおお!もうこうなりゃ自棄だ!」
彼らはトラウマ覚悟でこの屋敷の攻略を本気で目指していた。だからだろう。意気は下がらず、寧ろコレに上がって行った。
しかしそれは無理をしているのは他のプレイヤーがもしコレを見ていればすぐにバレていただろう。
彼らの顔色はすぐれず、大声を出して勇気を絞り出していると分かる表情だからだ。
プレイヤーたちはその部屋を出て声のした方向へと廊下を走る。全力で。そうしなければ恐怖に負けて足が止まってしまいそうだったから。
その勢いのままに正面行き止まりにある大扉を蹴破る。「ばあん」と大きな音を立ててその扉は派手に開く。
中の様子を先ずは警戒しようとして全員がその入り口で止まる。そしてここで彼らはまたやってしまった。部屋の中が至って何も無い、只の小奇麗な寝室である事に拍子抜けした。
消えた仲間がここで倒れているのでは?そんな期待を込めていた事が仇になる。もしやられていなければまだ立ち直す事が可能だ。そんな淡い期待。微かな期待。
しかし居ない、その事実に一瞬だけ気を取られてしまった。それは先程の失敗を繰り返す事だと気付くのを遅らせた。