何で俺だけ「人形破損の経緯・始まり」
誰からも畏れられる「恐怖の館」の前に彼らは居た。そのプレイヤーたちは意を決しての攻略だった。
「良いか?ここに入ったらなりふり構わずに全てを攻撃対象にして破壊の限りを尽くすんだ。」
そのパーティのリーダーがそう言って仲間に最後の声掛けをする。
「分かってる。「ホラー映画も皆でボケ倒して笑いながら見れば怖く無い作戦」だろ?」
余りにもこの作戦のネーミングセンスは壊滅的だったが、バイゲルが一番やられたくない行動を的確に衝いて来ていた。
「良し!皆遠慮は無しだ!覚悟を決めろよ!」
このプレイヤーたちは情報を集めに集めていた。この「恐怖の館」へと入ったプレイヤーたちの行動の情報を地道に収集していた。
この館へと攻め入ったプレイヤーたちの動向調査、そして精査をして一つの「偏り」を見つけ出したのだ。
ソレは「大人しくしていた」である。何が言いたいのかと言うと。
「こちらが慎重に動けば動く程に相手の「思う壺」っていうのはもう分かってんだ。やるぜ!俺はよ!」
そう、今まで誰しもがこの館の不気味さに、そして「常識」に囚われ、思い込んで行動しての敗北であると彼らは気付いたのだ。
余りにもこの館の情報が無さ過ぎて慎重に動かざるを得ない。しかし敵側がそこにつけ込んで大胆にも攻撃を仕掛けてくる。
しかも直接攻撃では無く「搦手」しかも精神に作用するトラップ多めで混乱を引き出して自爆するような誘導をして来ると言ったパターンを彼らは掴んだのだ。
だから彼らはこうした「最初から暴れ倒す」といった方法でソレを克服、突破しようと考えた。単細胞と言ったらソレはそれなのだが、その方法が一番バイゲルが嫌がるのである。この館に仕込まれているギミックを丸ごと一緒に纏めて破壊をされては敵わない。
外観で既に小綺麗で立派な建物であるがゆえに、それを「壊す」と言った発想に今まで至らなかったプレイヤーたちはこの方法を思いつかずに恐怖と共に屠られていたのだ。
「うおおおおおお!」
その叫びと共にプレイヤーパーティは門を先ず魔法で爆破して破壊し館の庭へと突撃して行った。
爆発音と衝撃波で門は吹き飛び、ガシャンと音を立てて庭の植木へと突っ込んで行く。
ソレをプレイヤーは横目で見つつも各自の目に付いた物体へと攻撃を仕掛けていく。
植木、花壇、小さな小屋に休憩用のベンチ、ティータイムに使うのであろう可愛らしいデザインのテーブルまで。
プレイヤーたちはあらゆる目に付いた物への破壊行為を繰り返し続ける。しかしその表情は暗い。そして真剣だ。
彼らはこの行為に興奮など覚えていなかった。暴れる事で、壊す事で気持ちがすっきりとするとか、気分が良くなるとか言った事に繋がっていない。
寧ろ緊張感がぐんぐんと上がっている様な心理であった。それは何故か?
「気を付けろよ!いつ相手がどんな事をこちらに仕掛けて来るか分からない!何かが出て来ても全力で先制攻撃だぞ!油断するな!」
この自分たちの行為でどの様な行動を敵が取って来るのか?ソレが逆に予想が付けられない事でプレイヤーたちは緊張の糸を張り詰めさせていた。
しかし慎重になって動きを止めればきっと自分たちも、ここでやられていったプレイヤーたちと同じ目に遭う事を分かっていた。
その張り詰めた精神が原因で彼らは自分たちを追い込んでいた事を考えなかった。
なりふり構わずに破壊行動を繰り返すのに、スキル、魔法を連発する事を惜しまなかったのだ。
ここでペース配分を少しでも考えられていたら、この「恐怖の館」を攻略できたかもしれない。それくらいに彼らは「良い線」までいっていた。