何で俺だけ「魔力注入!」
アレから数日後、エルフからは新しい使者が来て面会をした。そのエルフは錬金術を使える。ついでに一緒に貴重な植物を色々と贈られていた。
そしてそれらの植物を今この魔王城では育て増やす計画が立っており、エルフの使者もコレを手伝ってくれているという現状だ。
これが上手く行けば錬金術を学びたいと言う生徒を募集して教室を開く予定である。その教師はもちろんエルフの使者が担当してくれる事となっていた。
これらは俺が求めた内容そのままだ。メグロムはどうやら俺の要望を全て叶えてくれる気らしい。しかも即座に。
もうちょっとこうした流れになるのに時間が掛かるだろうと思っていたのだが、どうにもあっさりと実現してしまった事にソワソワする。
「なんだかまた何か起こるんじゃないだろうな?ここ最近は次から次へとあり過ぎて、もうちょっとゆっくりしたい気分なんだがなぁ?」
俺はチェインイベントを思い出す。このエルフの件で何かしらのフラグをもしかしたら知らない間に起てており、もっと大きな問題が起こったりするのでは?と。
プレイヤー大量殲滅事件の事はあれから掲示板を探してログを見ている。そこでコメントしているプレイヤーの結論は。
「魔族と戦うのは馬鹿らしい。勝てるはず無い」
だった。この結論は恐らくだがエルフの森へと進軍して来ていたプレイヤーたちの感想だろう。アレだけ居たのに全滅させられてトラウマに多少なっているようだった。
これを負け犬の遠吠えなどと煽る者も居れば、只やられた奴が弱いだけなどの意見も出る。
「光の力」をプレイヤーたちが全員が普通に持つ事ができているくらいになってから挑むべきとの見解も出る。
プレイヤーたちの中に「魔族に勝てない」のをストレスに感じる者たちが少なからず存在する事がそこから読み取れたが、だからと言って俺は手を抜く気は無い。
俺が彼らプレイヤーへのサービスに「魔族を殺させる」なんて事は無い。絶対にそんな事はさせない。あり得ない。
もうここらへんで俺の覚悟は大体決まっていた。このまま魔王としてやっていこうと。そんな時にその報告は来た。
ソレはバイゲルだ。どうやら久しぶりにプレイヤーたちの間で「恐怖の館」と呼ばれるバイゲルが守る地に攻め入る者たちが現れたと言う。
しかし既に撃退をし終えており事後報告、その件を直接バイゲルが説明をしに来たのだ。
「魔王様、この度のプレイヤー共はどうにも手強く、「人形」の一部が破損してしまいました。どうかこちらに魔王様の魔力を注いで修復をして頂けないでしょうか?」
人形とは以前にバイゲルに褒美として与えた特殊な代物だ。
コレはバイゲル指導の下に製作されたもので、コレに俺の魔力を「エンチャント」したモノをバイゲルに与えていた。
そして今回の攻め入って来たプレイヤーはこの特殊な人形を破損せしめた程の強者だったと。
(いや、俺この人形がどの様に使われているのかとか全く知らないんだよね?寧ろ、知ろうとは思えなかった。なんだか恐ろしくて詳しく聞こうと思わなかったんだよなあ)
この人形、どの様な作りになっていて俺の魔力などをエンチャントできるようにしたのか、俺にはさっぱりなのだ、正直にいって。
バイゲルが欲しいと言ったものが「魔王の魔力を与えた人形」だったのだから俺が何か言える部分は無いのだ。
だからその時は素直にその人形に触れたのだが、ハッキリ言って触っただけだった、その時は。
しかしそれでどうやら完成だったらしく、その時は嬉しそうにその人形をバイゲルは受け取っている。
「あー。分かった。アレだよな?うん。刀に魔力込めた時みたいな感じで良いんだよな?よし、やるかぁ。」
俺は自分の手に持ったその人形に意識を集中して「魔力注入!」としっかりと念じる。
だが、コレがいけなかった。おそらくはそんな念の籠め方は魔力を過剰に注ぎ過ぎたんだと思う。いや、こんな展開になるとは誰にも思いつかないだろう。
その人形はのっぺりとした見た目で、良くあるポージングを付けられる木でできた人形みたいな見た目だ。
しかしそれが突然光り出した。コレに俺は「えぇー!?」と混乱してしまい、人形を持つ手が余計に力んでしまう。
そして力むと言う事はこのゲームで言う所の「力を籠める」と言う判断へと繋がる。
そう、俺はここで更に更に、莫大な魔力をこの人形へと注ぎ込んでしまっていたシステム的に。俺の意思とは真逆に。
そしてこの結果、有り得ないモノが誕生してしまった。