何で俺だけ「運営の苦悩は続いている」
「とうとうエルフまで取り込まれちゃいましたよ・・・どうしましょうか、これぇ・・・」
ゲーム内の状況を確認するログを見た社員がそう言葉を漏らす。
「どうしようもねぇだろ、こんなの。会長が悪い、何もかも。」
「そうだねぇ。面白そう、って鶴の一声で決まっちゃったもんね、「魔王」って。」
「ソレを悪乗りしてめちゃクソ内容を作り込んだ馬鹿が居るしな。しかもそれを会長が気に入っちゃたし?」
「あれは有り得ねえ。ほんと何ナンだろうな?偶々進捗を気まぐれで見に来た会長が目にしちゃったんだよなあ。」
愚痴はこぼれるが、もう今更すべてが遅かった。と言うか、末端の彼ら社員には手の出しようが無い所で全てが決定してしまっていた。
「容量の余裕が有りましたからね。ついでに「誰にも当たらなければ良いんだよ」なんて遊び心を会長自身が言ってたというのがね・・・ランダムゥぅゥうう!」
「裏設定とかみたいな感じで資料集を販売した時に目玉にしようとか考えてたんだろ?」
「あー、それな。今明かされる真実!みたいな感じで情報開示してなー。その資料集販売する時にはこのゲームが落ち目とかのタイミングじゃない?」
「それあるかもな。ランダム設定に「魔王」が入ってましたー!とか言って、再びそれでゲームを盛り上げるネタに、何てな。」
「ジョブランダムに挑む奴が増えるか?それで?アリエネーってくらいの天文学的数値の確率なんだぞ?」
それでもソレに挑むプレイヤーは出るだろう、彼らはそんな意見でまだまだ雑談を続ける。
「必ず入ってます、って保証があれば挑戦する奴は出ますね確実に。まあ、少ない数でしょうけど。それにしても「魔王」が出た瞬間にお詫びのメール出すべきだったんじゃないですか?ソレがあれば今こんな事になって無いでしょ?」
「いや、それは違うわー。会長はこの事実を知って「超激熱!」とか言ったんだぞ?その「魔王」が当たったユーザーに「もう一度やり直せます」なんて送って、会長がソレをどう捉えると思うんだよ?」
「そんな対応をした社員や管理者全員解雇。・・・やりかねないからね、あの会長。こええよ、マジでそう言う所。」
「いや、プレイヤーの初期の動きでもうエルフの件はもう詰んでるわ。一応は人工知能、エルフのプログラムにプレイヤーへの「協力」って言うのは仕込んでおいたけどさ。ウチが独自に開発して使ってる人工知能ってよ、思いっきり学習するでしょ?それでゲーム内のプレイヤーを「観察」するじゃん?」
「あー、それ一番ヤバいパターン・・・あれ?そうなればエルフの「設定」からしてプレイヤーが町を独自に自分たちで作っちゃったのって、終わってね?」
この結論に至った事で「魔王コレに関係無いじゃん・・・」とお通夜モードになる。
彼ら開発陣、そしてゲーム調整を担当している者たちはゲーム内で起こる問題の全てを「魔王」のせいにしてストレスを、愚痴を吐き出そうとしていたのだ。
そしてソレは習慣づいて来ていた所にコレである。プレイヤーのやらかしで初っ端からエルフ関連のイベントやフラグがボッキボキに折れていた。
コレに落ち込むなと言うのが無理だ。最近は魔族がプレイヤーへと積極的に接触していたと思ったら、ゲーム内後半、それこそ魔王を倒す直前に手に入る筈の鉱石素材をバラ撒いていたと言った事といい。
ドワーフが「魔王」と友好な関係になっていた事も大問題である。それらをこの場に居る全員は同じく思い出したようで溜息を出すタイミングがシンクロする。
「ストーリーもバランスも滅茶苦茶だよ。まだまだ用意したイベントやフラグはこの先心配無いくらいには残ってるけど。それでもどれ程まで既に潰れた?もうこっちの予定では今プレイヤーはもっとスキルに強力なモノが増え始めてるはずだったのによ。そこへ武器はまだ弱っちいから足踏みしてるって感じで調整も見てたのに。」
「今は逆だもんね。武器つえええ!スキル?ああ、しょぼいよね!みたいな。・・・ログみるとさー。魔族が「強過ぎる」んだよね。でも、魔王関連の調整はするなって、上が言うしね?」
愚痴は止まらない。彼らは不満をここで吐き出さねば仕事などやっていられない。そんな精神状態だ。
「なあ?悪乗りして馬鹿やって魔王の設定作った奴とさ、それを調整受け持った奴はそれぞれ別じゃん?そいつもしかして調整何も考えてなかったの?」
「・・・俺の知ってる限りは、最後の最後まで調整を続けようとしていた。けどソレが終わる前に別チームに移動になって、ってのは知ってる。その後は多分直ぐにリリースだったな。」
「魔王に手を出すな!で、もう手出しできないんだもんね。でも確かずっと調整してた奴は訴えてたらしいよ?もうちょっとで上手くできそうな所で止まってるから、せめて最後までやらせてくれって。」
「熱意あるなあ。俺だったらもう完全に諦めるわそんなの。それにしてもよ?ウチのゲームへの対抗タイトルで別会社がVR・RPG出してたじゃん?アレの動向は?」
「あれも売れ行き良いらしい。あっちは自由度なんてのはあっても「攻略ルートの分岐が多い」って言うキッチリカッチリのお約束モノだからな。それでも豊富な分岐でハマる奴はハマる、ってのが良いらしい。一度ならず二度三度とクリアしていくうちに変な攻略法とか出て来るのが楽しいってよ。それで口コミでも広がってじわじわ。」
「うちはホントにプレイヤーに全部丸投げだからね。一応は「魔王倒す」って言う目標だけあるけど、レーンなんてモノが敷かれてない代物だからなあ。使ってるスパコンにも独自人工知能入れてるし、どう言った動きをするのかこっちにも予想が付かない部分あるよ。ある程度は用意してあるシナリオに沿った行動パターンとかは入れ込んでるけど、それすらも勝手に人工知能が「破棄」してくるとは思っても見なかった。」
「あー、最初のアレなー。魔王の側近ね。流石にもうこっちでアレの制御できてないからなー。もう俺たち要ら無くね?って思う。」
遠い目をしてミャウエルの事を語る社員たち。しかしここで「ぱん」と勢い良く手を叩く者が居た。
「俺たちにも仕事は残ってる。寧ろ要らないなんて言うのはあり得ない。逆だろ?こんな状態だからこそ、要るんだよ、俺たちみたいなのがさ。それじゃ、休憩も終わりにしてカオスの観察を続けるぞ?」
「なんだよ、カオスって。まあ、今の現状を表そうとしても、俺たちの心情を言い表そうとしても、ぴったりだなあー。」
半笑い、苦笑い、全然目が笑って無い笑顔で愚痴をこぼし続けていた全員は仕事に戻るのだった。