何で俺だけ「今後の事は様子見」
「我々にも戒めとしてプレイヤーたちの言動は心にしっかりと持ち続けなければならない問題です。この様な事を今ここで行ってしまうのは憚られますが。魔族の者たちが森へと入ってきた時には徹底抗戦が多くを占めていましたね。それを理詰めで降伏を説きました。ハッキリ言って、これほどに骨が折れた説得は今までに無いくらいでしたね。」
どうやらエルフたちは少数派の意見の「利」と「理」によって説き伏せられたようだ。そしてメグロムは続ける。
「我らも感情で動く生き物です。プレイヤーと何らそこは変わりません。しかし、違う点もあります。それは守るべき物の最優先度があると言う事です。」
俺はコレにハテな?と首を傾げる。エルフの守るべきモノとやらが何なのかについて。
「・・・あぁ、森か?森の民、だったよな、そう言えばベイルが主張していたのって。それで、そうかぁ。ウチの者たちが森を強引に切り開いちゃったんだっけ・・・その節は申し訳無い。改めて謝らせてくれ。もしかしたらそこにあっただろう森の恵みの補填はこちらで受けるし、何だったら森の再生費用や労働力などが必要だと言うのであればこちらから人手を出すよ。」
この俺の言い出しにメグロムは目を細めた。いや、メグロムは最初から超極細糸目だった。眉根を思いきり顰めている。
俺にはどうしてそこまでそんなに表情を崩してメグロムが俺を見るのかが分からない。いや、メグロムはそもそも俺を見ているのか、その糸目であるからしてその視線の方向がどちらに向いているのか最初から分からないでいたが。
「・・・王からのその様な謝罪と補償を引き出せて良かったと見るべきなのでしょうか?それとも掴み所が全く分からない事に畏怖を持つべきなのでしょうか?」
「あー、そっか。俺は「魔王」なんだったか。そうだよなあ、王様の腰が低すぎるよねー。この際だからメグロムにも言うけど、そんなに畏まらないで良いよ。もっとこう、楽に喋ってくれていい。俺は別に傲岸不遜な態度を取られても、そうやたらメッタらに怒ったりしないし。あ、御免、部下のミャウちゃんが怒って攻撃するかもしれんわ。ミャウちゃんが居ないときならそこまで緊張しないでもいいよ。」
それこそ俺は「王」などと言った器では無い。だから俺も畏まったりビビられたりして喋られるとどうにもやり難いと言う部分がある。
だけどもこうしてラフな態度を俺が出す所は場面場面で多少は変えている。
前にも獣人たちの長がここに来た時なんかはもうちょっと威厳を出して対応していた、と思うし。
「余計に訳が分かりませんね・・・さて、プレイヤーたちは片付いたとの事ですので、国へと戻っても大丈夫でしょうか?」
そう言えば彼らが国へと帰還する直前にこの事件は発生したのだった。それで今すぐに帰るのは危ないからと俺が引き留めているのだ。
「ああ、ダイジョブだと思う。護衛に何名かこちらから付けようか?」
「それには及びません。精霊が我らには付いていますので。」
そう言ってメグロムはピカーッ!といきなり光る玉を発生させた。とは言え、コレは先の言葉通りならば言うなれば「光の精霊」と言った所だろう。
「はぁ~。超眩しい。いや、眩しくない?あれ?めちゃんこ光ってるのに目に優しい光だな?寧ろ逆にキラキラ光って綺麗じゃんね。あー、何だか見てると優しい気持ちになれるなー、これ。」
俺の言葉をどうやら嬉しく思ってくれたのかどうなのか?その光はピカピカと三度、四度と明滅する。
コレにメグロムは何やら深く思案し始めたようで手を口に当てて何やら俯いてしまう。しかし直ぐに顔を上げて一礼して「御前、失礼いたします」と言ってもの凄く見とれてしまう様な綺麗な所作で一礼してから出て行ってしまった。
「何じゃらほい?メグロムは何を考えたのかね、あの一瞬で。まあ、良いか。」
会見は終わりとなり、俺は今回で入って来たポイントの確認をする。ちょっとだけウキウキとして。
犠牲となったプレイヤーたちを少しだけ気の毒に思いながらも、俺は期待を抑えられない。
「うひょー!?今回もかなり入ったな!2万、うーん?2万かぁ。あれ?ちょっと少なく感じるな?まあいいか。何に使おうかなぁ?・・・よくよく考えたら、大方の事はもう既にポイント注ぎ込んでMAX近いんだよなーどれも。コレは暫くは貯めて置く方向にするかぁ。貯金も必要だよな?」
粗方の事は以前に入った大量のポイントで「コレで今は充分過ぎる」と言ったレベルまで上げておいてあった。
なのでここでそれらの一部をこのポイントを使ってMAXに上げておいても良いのだが。
「そう、保険な。一気に上げる快感は最近もう多めに享受してるんだし。もうちょっと「王」として慎重な所も出していかないと・・・なんてな!冗談でも無く今はブチ込まずに様子見するかぁ。もしかしたら他に何かしら突然メニューに増えてる事もこの先に出て来るかもしれないしな。」
俺はそう思ってメニュー画面を調べてみる。しかし変わった所は今回は無かった。
その後はミャウちゃんとゲブガルにエルフの森現地に残す兵たちの調整を指示して残りを撤退するように言って俺はログアウトをした。