何で俺だけ「大惨事は既に」
獣王、その特性は「狙撃」。彼はレベルが上がれば上がる程、強化されればされる程に、その狙撃の腕と距離が超・長距離化する仕様だったらしい。
設定?として、彼はその一本で獣王まで上り詰めたそうで。
その特殊な強さから相手を近寄らせないと言う点で見て、彼は防衛の要となる土地に配置されたと。
狙撃と聞くと接近されたらひとたまりも無い、そんなイメージがあったが、接近戦も熟せてしかもその腕前はかなりのものらしい。その時になればライドルは短剣を使用するそうだ。
そんな彼はライオンの獣人だ。亜人と呼ばれる者たちを率いていたボス的存在だったという。
さてその彼の愛用の武器は魔法銃「千里の道も一歩から」。単発ではあるが込めた魔力の量が少量でも魔力弾丸を放てるらしい。
その銃は魔力を弾丸として放つ際に高密度、殺傷力を非常に高く上げるのだという。そのコスパは非常に高いと。
だが、俺が彼をそもそもこれほどまでに強化をしなかったら、ここまで異常な強さ、出力にはならなかったそうだ。
そうこの魔法銃、そこまで本来だったならばこんな化物みたいな飛距離と威力は出ない代物だった。強化前のライドルの強さでは。
しかし俺が一気に強化ポイントを注ぎ込んだせいで、いや、おかげで?今のライドルに敵はいなくなったと。
この強化で遠く離れた距離にプレイヤーが起こした街を「一方的に」壊滅せしめる事に至っている。
到底プレイヤーたちでは想像もできない程に離れた距離からの狙撃。コレは恐怖以外の何物でも無い。対処などできなかったはずだ。
しかしこの銃、一発を放つのに再度弾丸を打ち出すまでにはタイムラグが発生する。それを読んで、読み切って、ライドルへの接近は可能なのだそうで。
しかしそれはその距離がここまで馬鹿げていなければ。ライドルの強化で魔力の総量が上がっていなければ、が前提となる。
まさしく狙撃の化物、それがこの強化されたライドルとその愛銃なのだ。俺はまたしても知らずのうちにそんな「ヤベェ」四天王を生み出していた。
「スナイパーライフルかよ・・・ゴ●ゴ「13」レベルだぞ、そんなの・・・」
俺はとある今でも有名な漫画作品の主人公を思い出す。それは只の現実逃避でしかなかった。
このプレイヤーの興した街を一つ廃墟にした事件の大本の原因、犯人とも呼べるのが俺だとバレたりしたら?それを想像するだけでケツの穴がぎゅ!となって背中が冷える。
プレイヤーが一斉に俺に向かって恨みの形相で大量に襲いかかって来る光景を幻視してしまった。
「そうか、だからこの魔王って言うのは秘さなきゃならんのか。って言うか、運営?何でこんな「魔王」なんて用意したんだよ!くっそが!」
「魔王様の神々への怒り、当然の事に御座います。神々、奴らは愚かにも人種を贔屓し、我々魔族を蔑ろにしました。人種は我らの種族を勝手に神の敵などと言って攻め込んできて身勝手極まり無い存在。殺し尽くさねば我らの方が滅ぶ定め。ならば奴らの言う通り、我々は人種の、神々の敵となって抗って、そしてその先は人種を根絶やしに!」
(あー、そう言った背景なのね。そうなれば俺も遠慮する事は無いのかな?いや、ちょっと待て?じゃあこれってもし、俺が復活して魔王としてその人種を根絶やしにしようとして動いてたらどう言ったゲームの流れになるの?え?うわ!ちょっと待てよ!想像できないぞ!?)
俺はこの後で心底悩む。コレで俺が迂闊に手に入れたポイントで四天王を強化するとどうなるかが解ったからだ。
このゲームがどの様な意図で、どの様なコンセプトで製作されたのかが全く分からない。運営がこのまま俺が暴走したら「アカウント停止」をしてくるのでは?と心配になってしまう。このまま思いのままに俺は動いて良いモノか?
そして、もしかしてまだこのランダムでジョブを選ぶシステムには「シークレット」が残っているのでは?と思うとそれが何なのかが気になった。
魔王があるくらいだ。ならばお約束の「勇者」も居るのではないか?そんな事を考える。
でも、俺がこれらを知る事は叶わない。そう言った「裏」に近い場所に俺は居る訳では無いし、そう言った「裏事情」を知っていそうな、あるいはそう言った人物と伝手がありそうな友人知人がいないからだ。
俺は只の「一般人」なサラリーマンだ。開発陣との接触なんてできるはずも無い。考える意味が無い。
そう思えば全ては行き当たりばったり、その時になって見なければ分からない事しかない。今の俺はこの「魔王」を遊び続けるしかないのだ。
だけど俺はこれ程までにこのゲームを遊ぶプレイヤーたちを追い詰めるつもりでいた訳では無かった。最初は八つ当たりをしようと思ったりもしていたが。
だけどこれ以上つっこんでこの「魔王」を俺は遊んでいいモノかどうか?
俺はその事を一人でゆっくりと考える為にミャウちゃんに一旦戻ると告げてログアウトした。