何で俺だけ「超!大技発動!」
それでも最後の力を振り絞って一矢報いるプレイヤーも居た。その攻撃は魔力を込めれば込める程に攻撃範囲が広がると言った代物だったのだが。
周囲にプレイヤーの影がどんどんと無くなって行った事でその当人は「これしかない」と考えた。
そう、発動してしまうと他のプレイヤーまで巻き込む攻撃ではあるが、その迷惑を掛けてしまうであろうプレイヤーは魔族にやられてしまってもう自分の周囲に居ないのである。
自分がこうしてまだ生き残っている事は逆にチャンスだとも考えられた程に。
「俺の全てを込めるぞおおおおおお!やってやるううぅゥぅゥぅう!やってやるぞおおおおおお!」
その叫びは戦場に響き渡った。その後に莫大な魔力がそのプレイヤーの持つ剣に集まって光り輝く。
「大地崩壊天破衝撃裂孔光波神妙けぇぇぇぇぇえーん!」
中二病全開な技名が叫ばれる。そして大上段へと振り上げられたその剣は眩しい。
最大レベルまで上がっているプレイヤーの魔力が全てその剣へと込められているのだ。その威力は絶大である。
このプレイヤーの叫びに生き残っていた他のプレイヤーたちが期待を込めてそちらへと視線を集めていた。既に今居る数は前衛職は百を切ってしまっていた。
最初にどれくらいの前衛職が突撃をしていたかを把握しているプレイヤーは居ない。しかしこうして魔族からの怒涛の攻撃を受けて数が減って行くと認知できてくる。
視界からアレだけ居たプレイヤーたちが光と消え去って行けば、逆に数えやすくなって行く、認識しやすくもなる。多い数を数えるよりも少ない数を数える方が易いのだから。
期待が高まるプレイヤーたち。この攻撃が魔族へと届けばソレを狼煙に反撃を、などと甘い事を心に思い浮かべてしまって居るのがバレバレな表情だ。
しかし現実は無情だ。
「奇襲をするなら声など上げるモノでは無い。無言で為すべきだ。」
このセリフはミャウエルだ。しかしプレイヤーへこの言葉は一切届いていない。
既にこの一撃を繰り出そうとしたプレイヤーが叫んだ瞬間にその場から遥か後方に退避しているのだ魔族軍は。
それこそ誰も一切言葉を出す事無く、只々即座に一時撤退を済ませていた。
悲しい事に超大技と言えるその攻撃を発動してしまって居るプレイヤーは今更キャンセルも、ましてや移動、前進して下がって行っている魔族を追いかける様な事もできない。
技を発動してしまった以上はその場から移動ができない仕様だった。
どんどんと小さくなって行く魔族たちにプレイヤーはホッとした。これだけ距離が離れれば自分たちが逃げる隙も時間も生まれるだろうと。
だけども、この考えも甘い、甘すぎる物だとは今この場の誰もが考えつかなかった。
攻撃範囲が広いとは、どう言った「方向」に広いのだろうか?前方直線?それとも扇状に?もしくは自分の真後ろ以外に攻撃判定が広がる?
そのプレイヤーの放った一撃は「全方位」だった。そしてここに居るプレイヤーたちは「レイド」を組む手続きをしていなかったのだ。
そう、巻き込まれた。この攻撃に。魔力を全て込めた威力も範囲も莫大なモノへと変貌した超広範囲破壊技に。
剣が大地に叩き付けられた。その場所から大地が勢い良く吹き飛んで行く。地面から吹き上がる衝撃波が大地を波立たせ、爆発させていく。
そしてその攻撃はかなり離れていた魔族へも迫り、それにギリギリ接触してしまった三名ほどに中ダメージと言えるくらいの被害を齎したのだが。
「損害は軽微です。被害を受けた者は即座に撤退させます。護衛に二名を付けて帰還します。」
即座に状況の報告と確認、そして対応をする魔族軍。
「宜しい。残りは全力でまだ生き残っているプレイヤー共を駆逐する。全員前進!」
プレイヤーの攻撃効果が切れた瞬間にミャウエルは即、号令をかける。
しかしもうこの時点で既に前衛職のプレイヤーは技を放ったその当人以外は存在しなかった。巻き込まれたプレイヤーは先程の威力で全滅であった。
「ちっ!余計な真似をされた。これでは魔王様への供物が。」
ミャウエルは魔王が得られるはずのポイントが著しく減ったとそのプレイヤーの事を睨むのだった。