何で俺だけ「力の差は歴然」
激突、そう思われた瞬間に魔族は急激に止まる。しかもその動きは一糸乱れぬスムーズさだ。
プレイヤーたちがコレに意表を突かれた瞬間に魔族の持つ剣から一斉同時に黒い球体が放たれた。
ソレは闇魔法の「ダークボール」と呼ばれる攻撃魔法。威力はかなりのモノであり、それが目と鼻の先から飛んでくるのだ、高速で。
避けられるはずが無かった。防げる猶予など存在しなかった。そして、それ以上にヤバいのが。
「ぎゃあああああ!いきなりコレは死ぬ・・・!」
「ちょっと待てえええええ!?何なんだよソレはぁ!?」
「え!?二連発ううぅゥぅ!?って!まだ続くのかよ!?」
「三段撃ちぃぃぃい!?げっ!?違う!これってまさか!?」
「俺たちが全滅するまで繰り返し続けるつもりかよ!」
魔族のその攻撃は止む事が無い。魔族が急接近の後に急停止した時には整列がなされていたのだ。
一列目が魔法を放てば即座に後方へと下がって二列目と入れ替えだ。そして二列目が撃ち終えれば三列目が。
三列目が終われば四列目、五列目と繰り返し続けられ、一巡である。その動きは美しさすらあり、洗練さを見て取れる程に動きは滑らかだ。
その頃には魔族の一列目が再び前に出て剣から「ダークボール」を放つのである。
実を言うとこのドワーフ製の量産剣から放つ魔法にはリキャストタイムが設定されており、こうした運用方法が訓練で確立されていた。そしてとうとう初お披露目。ここでの記念すべき実戦投入であった。
この闇魔法は飛距離が短く、その代わりに威力が高い。遠い距離からはプレイヤーへと届かない代物だ。
この剣の有用性はソレを使う本人が使えない魔法を「設定」しておける点である。
炎の魔法を使える者が居るとして、水魔法は逆に使えない、となると採用できる戦術の幅は大幅に狭まるだろう。
しかしこの剣は特別なエンチャントが掛けられたドワーフ製。魔力を込めるとあらかじめ「設定」しておいた魔法が発動できる代物で、コレを用いる事に因って当人が使えない魔法でも使用が可能となる。
この攻撃に次々に倒れ消える前衛プレイヤーたち。後方からの支援が見込めない状況で絶体絶命だ。
後衛職のプレイヤーたちはゲブガル率いる魔族たちに苦戦を強いられており、戦況は圧倒的にプレイヤーたちの分が悪い。
魔族がプレイヤーを一方的に殺戮している様な状態である。こんな状況であるからして、プレイヤーは弱いのかと問われれば、そうでは無い。レベルは最大まで上げており、こうも簡単にボロ雑巾の様に殺されるなどと言うのは本来ならばあり得ないと言えるくらいにはステータスの数値は高い。
しかし、特別な軍事訓練をしてきている本格的な軍隊に勝てると言えるだろうか?魔族たちは定期的に本格的な戦闘訓練、連携訓練、陣形訓練を繰り返し行っている。
こんな魔族に対してではあるが、プレイヤーにも勝てる確率は低いながらも存在はしている。しかしそれは絶望的な数値と言えるだろう。要するに、プレイヤーは早々に魔族を見たら諦めるのが正解なのだ。やられたく無ければ。
ここに集まった多くのプレイヤーがその事を気付けていない、未だに。だからこそ今こうして追い詰められている状況に陥っていた。
そもそも、これほどの力の差はあれど、プレイヤーに逆転の目が無い訳でも無かった。しかしそれは既に遅い。「光の力」を得ていたプレイヤーが既に魔族の攻撃で墜とされているからだ。
プレイヤーはこの「光の力」を使用した者を最優先で守るべきだった。そして「力」を使った当人も自分だとバレたくないと思って名乗り出なかったのだろうが、その判断は誤りだった。
直ぐに「力」を自分は持っていると名乗り出て周りのプレイヤーに自分を隠し守って貰うように言うべきだったのだ。
切り札、隠し玉という物は秘してこそである。それがもしできていたなら奇襲でも何でもして魔族の一人や二人は倒せていた可能性があった。
しかし今となってはもう意味の無い事である。そのプレイヤーは早々に光の粒と消えてしまっているのだから。
こうして魔族によるプレイヤーの蹂躙劇は暫く続いた。