何で俺だけ「とうとう現れた」
その「光の力」によって作られた壁は魔族の放った魔法を全て防いだ。プレイヤーはコレに大いに沸き立つ。
「うおおおおお!コレがあれば負ける要素無いだろマジで!・・・で、これ誰が出してるんだ?後でどうやってゲットしたのか聞かねーと!」
しかしプレイヤーの中にこの壁を作り出した様子の者は見かけられない。魔族はコレに一層の緊張感に包まれる。
ミャウエルはここで魔王へと報告。「光の力」を使うプレイヤーが現れた、と。しかし魔王が援軍を出したと言う事を聞き、コレに「勝てる」という計算をはじき出した。
「全員で魔力弾を撃ち続けろ!威力は抑えて数を連発!あの「光の壁」を攻撃し続けよ!」
「弾幕が激し過ぎだろうが!これじゃあ前に出れねえぞ!?んだよ!この「壁」は固定なのかよ!?」
膠着状態に陥った。光の壁は出したままに前には進出できず、しかしそれを解除すると魔族からの魔法攻撃が一斉にこちらを蹂躙すると言った形になってしまっていた。
プレイヤーの後衛職たちもこの状態では支援を出せず、回り込んで魔族の横から攻撃を仕掛けようと移動しようとしても、それを魔族が防ぐためにそちらにも攻撃を仕掛けてくる。
時間にして五分未満だろうか。そんな状況が続いていたのだが、戦況は魔族に有利に動き始めた。
挟み撃ち、と言ってもいいだろう。後衛プレイヤーたちへと新たな魔族の集団が接近してきた事に因って均衡が崩れる。
「何でこんなに魔族が集まって来るんだよぉ!?後衛!迎撃してくれ!こっちは動けねえ!」
前衛のプレイヤーたちは光の壁から出てしまえば一斉に魔法での攻撃に晒される。光の壁のカバーできる範囲はそれほどに広く無かった。
ここで前衛プレイヤーたちは激しく一直線にこちらへと飛んでくる魔族からの魔法弾に「油断」していた。
彼らは前方で光の壁が防いでいる魔法の爆発に気を取られていて、その上空への警戒を下げていた。
魔族が直接空を飛べると言う情報はもうプレイヤーの中に広まっている。だから、魔族がこの光の壁よりも高い高度からの魔法での爆撃をして来る事も予想して上空警戒もしていた。
だけど、魔族の姿がこちらへと飛んで来ない事で油断した。来ていたら直ぐに視界に入るだろうから注意を怠った。
放物線上に飛んでいくソレは光の壁を飛び越える。その攻撃はプレイヤーが魔族への注意を逸らした一瞬で遥か上空へと計算しつくされた上で放たれていて、見事に前衛プレイヤーの足元へと着弾する。その魔法はかなりの爆発を起こした。
「奴らの練度は低すぎるな。全員抜刀!これより突撃!一人も逃すな!」
どうやらその上空からの華麗なる一撃によって「光の壁」を作り出していたプレイヤーはやられてしまったようだった。
魔法弾を防いでいたその防壁は消え去り、プレイヤーの無防備な姿がさらけ出される。しかも魔法の爆発で体勢が乱れに乱れた状態で。
そこへとミャウエルの突撃の号が響く。魔族たちが一斉に腰の剣を抜き放ちそれに魔力を込める。そのまま静かに声も上げずにプレイヤーたちへと迫った。綺麗な隊列を組んだままに。
「うおおおお!なんだよコレはァァァ!ちきしょうが!こうなりゃやってやるしかねえだろが!」
自分たちを守る為の壁が無くなったプレイヤーたちは魔法攻撃の嵐に晒されると思ったのにもかかわらず、魔族が剣を抜いてこちらに攻めてくる事に唖然とした。
しかし直ぐに気持ちを切り替えた一人が仲間に発破をかける為に叫び出す。魔族が近付いて来るならこちらも迎撃をするだけだと。
前衛職、彼らは接近戦を得意とする職業だ。魔法で遠距離から一方的に攻撃されれば一たまりも無い。しかしこうしてわざわざ魔族が遠距離からの攻撃を止めて近接戦闘を仕掛けて来てるのだからこのチャンスを逃したりはできない。
誰もが武器を構え直し、さあ来いとばかりにベタ足で踏ん張る。斬り掛かられてもこの態勢でなら一撃ではやられない、やられたりしない、そんな自負で。
しかしプレイヤーは自分たちの考える予想とは逆の動きを見せる魔族に、心に隙間を作ってしまった。