何で俺だけ「戦闘開始はいきなりに」
「光の力」を使うプレイヤーが現れた。その魔王への報告から時間は少々遡る。その戦闘が始まる前。
プレイヤーたち陣営は森の前へと進軍するのに少々の遅れを出していた。コレは出した斥候が戻って来なかったと言うのが原因で、何かトラブルが発生したと判断してプレイヤーの森への進みはより慎重にされる事になったのだ。
予定の歩みよりも遅くはあったのだが、それでも徐々にプレイヤーの大規模集団は前進をしていく。
「それにしてもさ、斥候がこっちに連絡の一つも出さないでやられるとか、相当じゃね?」
「あー、ちょっと待った。今生き返った奴から連絡来たわ。・・・魔族にブッコロされたってよ。」
「あぁ?マジかよ!だってこれからエルフが居るって言う森に行く事になってんのに何で魔族の相手何かしなくちゃいけねーんだよ!?」
「って言うか、偶々見つかったからやられたって言う理由とかは?」
「あ、別の斥候部隊からも来たぞ?あー、何々?全滅させられた?全力で?え、ソレはヤバいのでは?」
「もう一回斥候チーム作って様子見させに行くか?」
「駄目だろこの分だと。直ぐに見つかって犬死必須じゃん?ここは一気に攻めちゃえば良くね?この数だし?」
「あー、それも良いか?でもなー?勝てるか?」
「いやいや、これだけの数いれば勝てるでしょ流石に?あれ?なんか不安になって来たぞ自分で言ってて?」
「それ死亡フラグじゃね?とは言え、一体くらいは倒せそうなもんだよな。何せこっちは五百いるし?って言うか、良くこれだけの数集まったよな、マジで。」
「エルフのその居るって言う情報の前に魔族を倒さないと森の中にすら入れない、とか言ったイベント・・・では無いよな?」
「可能性が否定できない。と言うか、もしかしてプレイヤーの集まる数が一定数以上になると魔族が攻めて来たり接触する可能性が高くなるとか?」
「ともかくこれ以上は議論は無駄みたいだし、行ってから考えない?」
彼らはこうして引き返すと言う選択肢を採用しないでいた。そのままプレイヤーたちは互いに推論やら議論を交わしつつ進んでいたのだが、この警戒をしつつ進むと言う遅々とした時間が魔族たちを集合させるための時間になっていたとは露も知らない。
だだっ広い草原を進む先、森が地平線に見えて来た所でプレイヤーたちは息をのむ。
「マジかよ!誰だ!一発ぶん殴ってから考える発言した奴!」
「あ、これ死んだんじゃね?・・・やべえ!あっちは問答無用でこっちを潰す気じゃん!?」
魔族の先制攻撃は魔法弾だった。それは一斉に放たれた事で避けるスペースの見当たらない程の密度と化していた。そう、既に魔族軍は集結を果たしており、迎撃態勢は整っていたのだ。
「障壁展開だ!早くしろ!盾役は前に出て少しでも防げー!トロトロしてんじゃねーぞオラァ!?」
この一言でプレイヤーが一斉に動き始める。反応も対応も遅かったが、ギリギリこの初撃を凌ぎ切る。
あくまでも魔族から放たれた魔法は相手への様子見として放たれたものであり、爆発やら突風やら氷結などの発生しない衝撃波だけが発生する魔法弾であった。
しかしコレを分かっていないプレイヤーたちはこれらを防げた事により戦意をより向上させてしまった。
「こうなったらしょうがねえ!全員突っ込めえぇぇぇ!」
恐らくはこの集団のリーダーを務める役をしている者の声だろう。それが響くと一斉に突撃を始める者たちが現れた。
ソレはどうやら前衛職と呼ばれる者たちであり、それぞれの手には様々な武器があった。
そんな突っ込んで行く者たちを援護するように後衛職、魔法や飛び道具などで後方から前衛を支援をする者たちの攻撃が飛ぶ。
反撃とばかりに放たれたそれらの攻撃が前衛職が魔族たちとの接触前に届く。大きな爆発が何十も起きた。
この攻撃で爆煙、土埃などが発生しプレイヤーたちの視界を遮ったのだが、それが晴れる前に構わず突撃を掛ける前衛職たち。多くの者が魔族の脅威、強さを認識していたのか、自らの持つ最大威力のスキルを放つ。
「大断剣!」「乱れ桜あぁァぁあ!」「陽炎斬り!」「狂乱武闘!」「蝶の舞ぃぃぃぃ!」「大地の怒り!」「千本突き!きえええええ!」「切り払え!幻刀!」「紫炎極舞!」「オーロラスマッシュ!」「パワーオブレフトォ!」「ライジングインパクトぉぉぉ!」「シャドウレイン!」「クラッシュソード!」「バーストスラッシュゥぅゥー!」
別に攻撃スキルの名前を口に出さずとも発動は可能なのだが、そうしてプレイヤーたちが一斉に「必殺!」と言った感じで叫びだすので誰が何を言っているのかサッパリと判らない。
だが、そんな事すらも、煙が晴れてしまった時には気にならない。何故なら。
「な、何で居ねぇんだよ!今さっきのさっきまでそこに居ただろうが!?」
一斉に放たれたプレイヤーのそのスキルは空振りに終わっていたからだ。プレイヤーの攻撃スキルの余波で煙が晴れたその先にはそこに居たはずの魔族が居なかったから。
煙で視界が通らないのに乗じてバレない様に既に遥か後方に下がってプレイヤーたちの突撃を躱していた魔族たち。
「愚かな者たちだ。もう一度魔力弾を準備せよ。」
その言葉は魔族の「仮面」を被ったミャウエル。この場の指揮を執る為に変装をしていた。
今目の前のプレイヤーたちは「正義の仮面」を被って「粛清」する相手では無い。ミャウエルとしての魔族の立場でプレイヤーを撃滅するのである。
「一応は奴らは役割などを決めて陣形モドキを取っているようだが・・・所詮は付け焼刃のようだな。しかし油断はするな!各自訓練で培ってきた力を今こそ出す時だ!プレイヤーをこの場から一人も残さず殲滅するぞ!放て!」
ミャウエルは他の魔族たちの身を引き締めるために気合の籠った号令をかける。コレに放たれた魔力弾はプレイヤーたちを吹き飛ばす、はずだった。
その魔力弾はスキルを放って硬直しているプレイヤーへと着弾する直前に、まばゆい光を放つ真っ白な壁に全て防がれた。