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何で俺だけ  作者: コンソン
「俺」
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何で俺だけ「押し付ける様な形になる交渉。形だけの交渉」

 そこには言い争うエルフたちが居た。どうにも生き恥を晒している事に対して責任の押し付け合いをしている様子だった。


「貴様の精霊魔法が効かなかったからだ!」

「どうしてこんな化物だと最初に言わなかった!そうであったなら俺たちは参加などしていない!」

「何を今さら言っているんだ!お前は私の精霊魔法よりも威力が上だと言って普段から偉そうにしていたではないか!」

「ベイルの精霊魔法が届かなかった事を事前に知っていても我々はきっとこの襲撃に参加していた。今更恥の上塗りは止したらどうだ?」

「お前が言うな!真っ先にへばってその後は一番最後に立ち上がって来たくせに!情けない奴が!」

「連携の一つも取ろうとせずに一人突出していい加減な攻撃を仕掛けていたクセに何を言うかお前だって!」

「何でお互いを殺そうと魔法を使おうとしても発動しない!?精霊はどうして我らの言葉にあれ以降反応してくれないんだ!?」

「出口を塞いでいる魔力障壁は今の我々では突破する事ができない。もうおしまいだ。お前のせいだ!」

「個人で誰もが決めた事だろう?情けない事を言うんじゃない。今ここに居る全員が自分で自分の責任を負うべきだ。」


 冷静で常識を説く者も居れば、今の自分の状況を誰かのせいにしたい者も居る。

 言い争いする声がヒートアップしていて俺がログインしてきた事に誰も気づかない。


(いい加減にしてくれないかなあ。あ、でも、彼らの行動が今後のエルフとの国交に役に立ってくれたと思えばそれはそれか?)


 この不始末にエルフ国のお偉いさんがこちらの求めをすんなりと呑み込んでくれたらバンバンザイだ。

 しかし無茶を言う気は無いのでそこら辺は相手側の国の負担にならない範囲を見極めるつもりではある。


「魔王様、本日の早朝からエルフ国の使者がいらっしゃっております。丁重にもてなしてお待ちいただいておりますが、如何なさいますか?」


 キリアスがこの玉座の間に入って来た。魔力障壁の一部をゲブガルが開けて中に入れたのだ。この言葉でエルフたちがピタッと会話を止める。そして俺がログインしてきている事を知って顔を青褪めさせた。


「君たちさー?これだけ時間があったのに自らの手で死を自身に与える事をせずにずっとそうしていたんだろうね。見苦しいよ、何処までも。魔法も精霊も使えないんだったらさ?首を絞めて死ぬ事もできるし、舌を嚙み千切って見たりとかもできたんじゃない?・・・ああ、エルフって苦痛に弱いの?ちょっとでもここに襲撃を掛けて来た覚悟が本物だったならそれくらいはできても良いんじゃないかと思うんだけどね。でも、さっきの言い争いを少しだけ聞かせて貰っていたけど、駄目じゃん。死ぬのが怖いなら怖いと口に出しなよ。俺はね、死ぬのが怖いよ?自殺するのも怖いよ?誰かに殺されるとか恐怖でしかないよ?けどさー?君たちアレだけ大口叩いておいて、コレは無いんじゃないの?」


 丁度そんな事を俺が言い終えた後はもの凄く「え?ソレ前見えてる?」と言いたくなる様な糸目の一人の男エルフがこの部屋に入って来た。その服装は儀礼服?である様子だ。ピシッと決まっていてカッコいい。

 ソレが分かるとエルフたちが全員同時に膝を付く。どうやらもの凄く偉い人物である様だこの様子だと。


「お初にお目に掛かります魔王様。私はメグロムと申します。今回の問題の件で直接こちらへと急遽御伺いさせて頂きました。ご迷惑をお掛けい致しております。」


 どうやら大分度胸の据わっている人物である様だ。その佇まいも相当に場慣れしている様に見える。


「はい、どうも。良くいらっしゃいました。とは言え、遠くからお越しいただいていますし、お疲れだったでしょう?こちらで暫し休憩を取っていて貰っていましたが、ごゆっくりと寛げましたでしょうか?」


 雑談から入る。というか、俺はミャウちゃんに手紙を使者として運んで貰っていた事を思い出している。

 あの過激なミャウちゃんだからきっとエルフの国で問題を起こしているのではないかと。


「手紙を頂いた後は大急ぎでこちらに参りましたが。確かに遠いとは言え、精霊様の御力を借りての移動ですので、疲れはさほどには。しかし到着して見れば過剰な程の歓待を受けてしまい、寧ろ戸惑うばかりでして。」


 どうやらミャウちゃんは余計な事は一切せずに手紙だけを渡してくれたようだ。そのミャウちゃんは今どこに居るのだろうか?

 そんな疑問を俺は頭の隅に寄せると雑談を続けようと口を開く。


「いやー、そちらの国には突然に多大な影響を及ぼしてしまったので、俺としては謝罪をしたいと考えていたんですよね。この場をお借りして、申し訳ありませんでした突然にあのような事をしてしまい。」


「いえいえ、所詮は我ら森の民。弱肉強食は森の、敷いては自然の絶対的な掟で御座いましょう。そうなれば我らも一つの弱者と呼べまする。強者の蹂躙、侵略に森の民と称する我らがどの様な文句を付けられると言えましょうか?小さき領土の中に閉じこもり、果ては外の種族を下に見てしまう勘違いは小さき器、勘違いも甚だしい事でございます。彼らの行動はその様な矮小な考えに囚われた事ゆえの失敗でありましょう。願わくば魔王様に私から彼らの助命をここにお願いいたしまする。愚かな者たちとは言え大事な同胞でございます。どうかご慈悲を頂きたく。その代わりと申しましては何でございますが、お求めならば私の命をここで差し出させて頂きまする。」


 土下座をされた。なんだかこの魔王になって急激に土下座される率が急上昇だ。コレに悔しそうに拳を握りしめているのは跪いてるエルフたち。しかし何も言葉は発しない。


「頭を上げて、立ってくれないか?別に俺は彼らの命を求めちゃいない。手紙を読んだんだよね?なら、交流をしよう。それがエルフの国に求めている俺の要求だから。彼らの代わりにこちらに錬金術に詳しい者を手配してくれるかな?錬金術、ソレをウチの皆に教えてあげて欲しいんだ。きっと才能を持っている住民が居ると思うんだよね。あ、貴重な薬草とかも譲ってくれると助かるね。それをこっちでも栽培とかしてみたいんだ。頼めるかな?こちらが差し出せるのはもう分かって貰えてるだろうけど、軍事力だけなんだよね。森でエルフたちの手に負えない事案が発生したらこちらが戦力を出す、って言う交換条件でお願いしたいんだけど、良いかな?その時にはエルフたちに一切被害が出ない様にウチの戦力だけを投入して臨むからさ。全力で発生したその問題を解決させてもらうつもりだ。」


 バランスはコレで取れている、何て俺は思わない。コレが外交として正しいのかも俺には判断しかねる。

 ソレはそうだ。外交なんてした事無い。あり得るはずが無い。国と国と言う大きなやり取りで、お互いに出せる「価値」の量り方なんて勉強してきた事など無い。


(俺はそんな器じゃねーんだよ。だけどこの場はコレで収められなくちゃ落し所が分からないしなあ?)


 対等、差し出しあったソレが互いに同等の価値である事を、そうで無ければそれをギリ呑み込める要求である事を願うばかりである。

 でも、今の場合は俺の方が立っている場所的に「高い」ので、メグロムに無理矢理要求を吞ませているような状況とも言える。

 俺の出した「軍事力」なんてモノは要するに脅しみたいなものだ。だが俺はそんなつもりで言った訳じゃ無い。

 しかし受け止める側がどう思うかが問題なのだ。エルフの力が及ばない事案が発生したらこちらが肩代わりする、などと言ってはいるがソレを本気で守ってくれるのかどうか?ソレはこの場では口約束で、いざその時になれば反故にされる可能性だって考えなければいけないエルフ側は。


 もちろん俺はそんな事をする気は無いのだが、それでも実際に「物」として現物をやり取りできない内容であるので信用問題と言う事になる。

 そんな事を言っても俺の、魔王軍の脅威は既に知っているメグロムだ。既にこの交渉を呑み込む以外に選択肢は無いのである。それが俺には申し訳無いと感じる。

 隷属国になるなどと言った決断を出した中にメグロムも入っているのだと予想する。でなければここで彼が出て来る事は無かっただろう。


「はい、魔王様の寛大な処分、御決断に感謝を。我々は今後ともこの「魔王国」との有意義なる和平を紡いでいく事をここにお約束致しまする。」


 メグロムがそう言ってこの場はお終いとなった。玉座の間を退出するメグロムの後ろを重たい空気を背負ったエルフたちが付いて出て行く。


「はぁ~。コレで良かったのかな?いや、良かったに決まてる、よね?あ、そうだ。ミャウちゃーん?今どこー?」


「は!今はエルフの森の外周に。斥候である様子のプレイヤーを見つけたので狩っておりました。どうやら大規模遠征をプレイヤー共は起こした模様です。これより奴らを殲滅致します。」


「え?」

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