何で俺だけ「お誘いを受けましたがお断りする事しかできません」
ここ最近の仕事は順調で、寧ろ少なくなってきているような感じさえする。俺がどうにもずっと最近は早上がりをするのが他の社員に影響を出しているのか、俺と似た様な事をし始める奴がちらほらと出て来たらしい。
テキパキと仕事を終えて、そして自分の時間を確保する。そんな流れが僅かながらに出てきているようだった。
「あの、その、少しだけお時間いただいても宜しいですか?」
そんな時に俺へと話しかけてくる女性が現れた。彼女も同じ会社の同僚である。しかし滅多に俺と仕事が被らないので連絡事項なども今まで一度か二度くらいしか記憶に無い。
ここはバーチャル空間だ。そして俺は「ブロック」の設定を滅多な事ではかけていないので誰でも俺へと接触してくる事はできる。
上司の制限も俺にはかけられていないので誰でもこうして接触の機会は作る事はできる。
「手短に、簡潔に、具体的にお願いします。」
セクハラなどをした社員が被害者に訴えられて上司がそのセクハラ社員を他の社員と接触しない様にとブロックを設定する事などは可能だ。
そう言った時には余りにも度が過ぎる、と言った場合がほとんどだが。俺は別段他者員との交流がほぼ無いためにブロックとは無縁である。一部以前にそう言った処置をされている者は二名程俺は知っているが。
「あの!ゲーム、しているんですよね?えっと、私も同じのをやっているんです!あ、コレは他の人には内緒でお願いします・・・」
何を連絡してくるのかと思えば雑談だった。しかも同じゲームをしている仲間だと。
「・・・誰からそんな話が漏れて・・・ああ、アイツか。」
俺へと勝手に話しかけて、勝手に嫌味を吐き出し、愚痴をこぼして去って行く、あの俺と同じゲームをしている社員。名前、何だっけ?
「そ、それでですね!ご一緒にゲーム、しないですか?私たちのパーティ、あ、私の知り合いと組んでるパーティなんですけど、あと一人枠が空いてるんです!それでその・・・よろしければと思って。」
地味な見た目で髪もボサボサ。ここはバーチャル空間だからメガネは必要無いが、オプションとして見た目に追加できると言った仕様で、彼女は眼鏡を付けている。ハッキリ言ってコレは無い、と言いたくなる見た目である。
「申し訳ありませんが、俺は完全にソロでやって行くつもりなんです。すいませんね。その誘いはお断りします。」
俺はこの誘いに乗れる訳が無いのだ。事情を知らないからこそこうして俺を同じ「ゲーマー」だと思って誘って来てくれているのだろうが。残念な事に俺はプレイヤーとは相容れない存在なのだ。
(いや、別にプレイヤーと一緒に、ある意味では「遊んでいる」って言えるか)
そんな事を俺は心の中だけで自嘲する。
「そ、そうなんですか。す、凄くその、残念です。ご、ご、御免なさい貴重なお時間を頂いてしまって。あ、あの、そ、それじゃコレで失礼しますね。」
俺は別段女性に厳しい態度を取ったりする様な真似はしない。しかしあくまで最低限の態度を見せると言った具合だ。
彼女は手短に、簡潔に、具体的にと言う俺の求めに対してすぐさま自分の用事を終えた後は粘らずに即座に去って行ってくれた。
どうしてあれほどに去って行く時に彼女が残念がって、しかも悲しそうだったのかは分からない。ゲーマーであるならばこうした事は「普通」と言える範囲だ。
「俺をパーティに入れるとか、何を考えてるのかね?自分の知り合いとパーティ組んでいて、そこに同じ会社の同僚の男を最後の一人に入れるとか、滅茶苦茶考えが分からん。」
ゲームの中の自分を知っている者が同じ会社に居るなどと考えると寒気がする。そう言った状態であると「はっちゃける」事などできないでは無いか。
ゲームの中でだからこその自分と言うモノがある。それらを知っているのはゲームの中の仲間だけでいい。会社の同僚になど知られたくは無い。
「あ、どう言ったアバターにしているかくらいは気になるな。まあ、今更だけど。課金だろうしな。」
課金で見た目が変えられるのだ。きっとその見た目は美女に変えているに違いない。
「さて、もうそろそろ追加が無ければ早上がりだな。さっさと終わらせようか。」
俺は今日のログインあたりで早くもエルフの国のお偉いさんが使者として直接やって来るのではないかと考えている。
そしてソレは俺の考えている通りとなった。