何で俺だけ「脱走」
様々な者たちにアンケートを取ろうとしていた矢先の事だ。その報は突然もたらされた。
「えー?ベイルが居なくなった?・・・それってどこかで迷子、とかじゃ無く?」
「はい。食事を運んだ者によると、一切部屋を出ていないのにもかかわらず、ベイルは部屋から忽然と姿を消していたそうです。」
キリアスが俺へとその様な報告をしてきた。どうにも俺はベイルとの話し合いの機会を逃してしまったらしい。
「ベイルの居た部屋って高い所にある客室だったよね?・・・窓から飛び出したのかな?」
俺がこの様な呑気な推理をしたのがキリアスには不思議だったらしい。「ま、魔王様?」と俺の真意が分からないみたいであった。
「あー多分だけど、精霊のシルフさんへとベイルが頼んで空に浮かばせて貰えるようにして部屋から脱出したんじゃないか?・・・え?そんな事を聞いているんじゃないって?んー?俺は別にベイルが自由に動いてくれても構わないんだよ。じっとされて「まだ気持ちが落ち着かない」なんて言って何を考えているのかも口に出してくれない位なら、こうして行方不明になってくれた方が面白いよ。最低でも「この場には居たくない」って意思表示として捉えられるしね。」
俺のこの考え方に「ポカン」とした顔をするキリアス。流石にこの様な事を俺が考えていたとは思いもしなかったようだ。
最近は慣れて来ていてキリアスも結構楽な感じでこの玉座の間に控えてくれるようになったのだが。それでもまだまだこの様な俺の思考には付いてこれないらしい。
「捜索隊を既に結成して探させておりますが、その、このまま継続しても?」
「ああ、それは引き続きお願い。ちゃんとベイルの抱える不満は直接話を聞いて受け止めたいしな。そこら辺の解消もしてあげないとな。エルフの国との交流もこの先しっかりとしたモノにしていきたいし。」
この俺の答えにどの様な事を感じ受けたのか、キリアスの表情がきりりとしたモノへと変わる。
「はっ!畏まりました!引き続きの捜索、発見の際にはベイルを拘束しこの場へと即座に連行致します!」
「・・・いや、ちょっと気合入り過ぎだよソレ?ちなみに、今捜索メンバーって誰が入ってる?」
俺は何故かここで嫌な予感が走ったのでちゃんとキリアスに誰がベイルを探す中心で隊を纏めているのか聞いた。
「はい、ミャウエル様が中心となって五百名を率いて捜索を・・・」
「みゃうちゃーーーあああんん!ベイルを痛めつけるとか無理矢理拘束とかは無しだよおおおおお!?」
俺は魔王通信で急いでそう直接声掛けをした。ミャウちゃんは以前にベイルへと「糸」での拘束を仕掛けている。しかもその時のミャウちゃんのベイルへの感情は少なからず良くないモノで。
『はい、このミャウエル、魔王様の御指示に従います。只今捜索範囲を広げて森林地帯へと向かっております。奴の魔力の残滓をようやっと追跡が可能となりましたので見つけるのは時間の問題で御座います。発見次第に奴をボコボコにして魔王様をコケにしたその代償を払わせ、抵抗できなくなる程にしてからその首根っこを掴み引きずって御前へと引っ立てる所存。』
「・・・ミャウちゃん?駄目よ暴力は?ちゃんと言葉で説得してね?あ、説得と言っても脅しは無しだよ?・・・あー、ちょっと森に入る前に皆そこで待機ね?俺が連絡を出すまでは待ってて頂戴。いいね?」
俺の嫌な予感が的中する直前であった事に胸を撫で下ろす。本当にギリギリだったと言えよう。俺の求めにミャウちゃんは「は!魔王様の御心のままに」などと返事をする。
(いやー、ホント、ミャウちゃんは過激が過ぎるなぁ・・・狂信、とまでは行かないんだろうけど、それも時間の問題の様な、寧ろもうなっているような・・・)
怖くなってきたのでそれ以上は考えない様にして「魔王通信」がベイルに通用するのかをメニューを出して確認しようと開く。
「えーっと・・・お?ちゃんとあったぞ?できるモノなんだな。こうして通信できるリストアップがされているとソレはそれで便利だな。何となく使ったりする前に確認は必要だね。」
魔王専用メニュー画面の隅々まで探してみれば、見つかった。俺はコレにホッとしてから早速ベイルへと通信を繋げてみた。