何で俺だけ「潮時だから引き上げよう」
掲示板の中は荒れた。実に荒れた。魔族を正攻法で倒そうとしない者たちの声が、怨嗟が、逆恨み、勝てなかった事への不満が爆発している。
自業自得と言える代物ばかりであり、それらをマトモなプレイヤーは無視する。もしくは煽る。
「馬鹿だよなー?これだけ掲示板で勝てないよって情報が流れてるのにまだこちらを不意打ちやら騙し討ちで倒そうとする奴らが絶えないんだもんな。何で?」
魔族部隊がプレイヤーを見つけ、交渉を持ちかけた瞬間に攻撃を仕掛ける。
こちらが終了の宣言をした後に狙って追撃を仕掛けてくる。
逃げるフリをして隠れていた他のパーティの居る場所へと誘い出す。
などなど、取り敢えずプレイヤーの仕掛けてくるパターンは大体決まっていた。
その前にそもそもあんなことがあったので、既に魔族の者たちはプレイヤーを信用していない。今ではこちらがプレイヤーを嵌める形になっていて、マトモなプレイヤーを選別すると言った形に変わってきているくらいだ。
敵を倒すのに卑怯も何も無い。確かにそうだ。誘き寄せられてまんまと罠に引っ掛かった者が弱かっただけ。
だったらこちらもそれに倣うだけである。
こちらがプレイヤーと接触した際には警戒心は最大にして、不意を突かれても完全に相手の攻撃を防ぐ態勢をとりながら。
ある程度の戦闘時間を見て「ワザと」攻撃を受けて怪我を負ったように見せかけて戦闘終了をプレイヤーへ合図する。
プレイヤーが少しでも戦闘中に後退、もしくは移動を見せる様な気配があれば「隠し兵」が居ると見なして最大限の警戒を取る。
それらの事をプレイヤーに対し素振りを見せない、悟らせないと言う演技の徹底ぶりもある。
こうしたこれらの地道な苦労の結果、ポイントはガッポガポ!と言った感じだ。非常に予想の稼ぎの遥か上を行くので俺の頬も緩む。
「さて、そろそろマトモなプレイヤーが居なくなってきたと言う話もあるけど、そこら辺どうミャウちゃん?」
「はい、ここ2、3日はどうにもそう言った頭の悪いプレイヤーが釣れるばかりでして。我々が素材をばら撒き過ぎたと言えるかと。」
「あー、そうか、プレイヤー市場に出回る数が多くなったか。それは仕方が無いな。結構な数を放出してるからねー。もう潮時かな?とは言え、マトモなプレイヤーと戦うよりかはそう言った頭の悪いだろうプレイヤーをキルしてた方が稼げると言えば稼げるんだけどねー。」
そう、割と順調に行き過ぎてプレイヤーたちは素材を無理に欲しいと思わない位になっていたのだ。
幾らかちょっとお高めであっても金を出せば買える。キルされて経験値を減らす、レベルが一気に落ちるよりも買い物で対応した方が良いと言った判断がマトモなプレイヤーの中に流れているのだ。
こうしてポイント稼ぎ大作戦の終了を判断した俺は外に出ている魔族部隊を撤収させる号令を出す。
「じゃあ皆に無事で帰って来るように連絡を。それじゃあお疲れ様。」
追加で俺はミャウちゃんに「無事に全員が城に戻って来るまでが作戦です」と言って退出を許可する。
それからメニュー画面を出す。ポイントは二十万に達している。コレは本当にびっくりだ。鉱石やら宝石などの鉱物資源を大分減らしてしまったが、それでもこちらの儲けの方がはるかに多いと判断できる。
「さて、メニューの変化は・・・何処をチェックしても無し、か。最大まで一気に稼いで封印解除をしないと変化はしないのかな?まあ、良いや。もう既に半分、ここから出られなくても良いってちょっと思ってるし?」
俺はここでこのポイントの振り分けを決めてしまう。そう、この作戦で貢献した者たちへと注ぎ込む事に。
「なんだろうねー?ミャウちゃんの教育が過激だからなんだろうな。「褒美」とか与えたいのにさー?要らんとか畏まられると何だか悲しいんだよねー。そんな拒否をされない様に無理矢理こうして俺が「部隊」をパワーアップさせちゃうって言うのも、なんだかなー?」
褒賞は部隊の強化。この稼いだポイントを使用して魔族一人一人と言った強化では無く、全体の強化が可能になった。
その分の消費量は大きくなったが、それでも個別で最大にまで上げるよりもお得であるのだ。
なお注意事項がある。名有りの魔族、俺が認識しているその存在はちゃんと個別対応で無いとパワーアップはさせられない。
ここで部隊の項目を開き「ポイント付与」を選んで幾ら注ぎ込むのかの数値を決めるのだが。
「やっぱりここは皆がんばったし?ちゃんとそこら辺の事は評価したいから最大まで行くよね?ポチッとな?」
俺は指をスライドさせて幾らポイントを注ぎ込むのかの値を変える。「十万」になった所で数値がそれ以上は上げられなくなったのでそこで決定を押す。今の強化できる最大なのだろう。稼いだポイントの半分を持って行かれているが、俺は満足だった。
「この瞬間が堪らないよなー。やっぱ徐々に強くなるよりも「1」からいきなり「1000」とかになったりした時の「俺つええええええ!」感は快感だよねー。」
俺の今できる軍事面での憂いはもうコレでほぼなくなったと言える。今の所はこれ以上は魔族軍を強くはできないのだ。
新たに軍関連での項目が増えた様子も無い。ならば後は地道な内政面での強化が必要だろう。
「さて、ここで生活している種族たちの不安や不満解消かな次は?」
俺は残りのポイントをそちらに全て注ぎ込むつもりでいる。外側が強くなれても内側から崩壊したらそこでお終いだ。
だから次は内部の「骨」を強固にする事が重要だ。縁の下の力持ち、である。それを太く、強くする事へ俺は頭を切り替えて行った。